研究課題/領域番号 |
19J00895
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
青木 勝輝 京都大学, 基礎物理学研究所, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 重力理論 / 宇宙論 |
研究実績の概要 |
一般相対論は重力の標準理論としての地位を確立しているが、一般相対論はあくまでも低エネルギー有効理論であり、高エネルギー領域では修正されると期待されている。特に、重力をゲージ理論として解釈すると計量の他に接続が動的な場として重力場を記述する。接続の自由度は曲率2次項といった一般相対論への高エネルギー補正を考える際に重要となる。一方で、近年のインフレーション観測はStarobinsky模型、すなわち曲率2次項によって引き起こされるインフレーション模型を支持している。もしこのような模型が正しいとすると、今後の精密初期宇宙観測によって接続の自由度の(非)存在を調査し、それによって重力がゲージ理論であるのか否かを検証することが可能となる。まず、我々は接続を動的として、曲率2次項を含むスケーリング次元4までの全ての可能な項を取り入れて、理論が安定である条件を明らかにした。その結果、インフレーションを引き起こすスカラー場(インフラトン)の他に最大で3種類の追加の場が現れ得ることを示した。次に我々が見つけた一般的な理論に基づきインフレーション宇宙を解析した。追加の場が十分に重い場合にはStarobinsky模型を再現する。一方で、追加の場の質量がインフラトンと同程度であったとしても、Starobinsky模型と同様なダイナミクスはアトラクターとして得られることが判明した。これは接続を動的とした模型も現在の宇宙観測結果と無矛盾であることを示す。しかし、接続を動的とするとStarobinsky模型への補正としてパリティ対称性の破れや重力波の振る舞いが変更されることを見つけた。これは補正を取り入れることによってStarobinsky模型との区別が可能、すなわち今後の精密観測によって重力がゲージ理論であるのか否かを検証することが可能であることを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は宇宙観測から基礎理論への示唆を得ることである。本年度得られた成果は、インフレーション宇宙観測を用いることで重力場の基本自由度の検証が可能であることを示唆した。Starobinsky模型と同様なダイナミクスがある極限で得られること自体は予想された結果であったが、このダイナミクスがアトラクターとなることは当初は予期しなかった点である。アトラクターとなるため、leadingではStarobinsky模型と同じ観測量を出してしまうが、上述したように補正を考えると模型の区別が可能となる。このように目的の達成に向けて研究が順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
インフレーション期の新粒子は原始ゆらぎの非ガウス性を用いることで探査可能であり、これはcosmological colider physicsと呼ばれる。したがって、Starobinsky模型との明白な区別を行うためには接続が動的である模型の非ガウス性を調査すればよい。しかしながら、理論の複雑さのために非ガウス性の計算は容易でない。そこで、変数変換によって複雑な理論を取り扱いやすい理論へと変形させる、あるいはブートストラップと呼ばれる手法、すなわち具体的な模型を解析するのではなく理論のもつ基本性質から直接観測量への示唆を探るといった手法を用いて、技術的困難さの解決を図る。 またブートストラップと関連して、基礎理論もつ基本性質は低エネルギー有効理論に対する一般的な制限(正値性制限)を導くことが知られている。これは正値性制限の知識を用いると後期加速膨張宇宙といった低エネルギー領域の観測から基礎理論の性質を検証できることを意味する。正値性制限は散乱振幅を用いて定式化されており、宇宙論の観測量とは直接結びついていない。宇宙論の観測量に対する制限として定式化することが今後の研究の目標である。特に、これまで宇宙の標準模型として考えられてきたΛCDM模型と観測との不一致が報告され始めてきいる。このようなΛCDM模型からのズレは物理法則に対してどのような示唆を与えるのかという点を正値性制限といった理論物理の手法を用いて明らかにしていく。
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