研究実績の概要 |
ミトコンドリアは、ミトコンドリアの外からタンパク質や脂質を取り込むことで拡大し,その機能を維持している. 一方, 核ゲノムにコードされたRNAもミトコンドリアに輸送されることが複数の生物種で報告されている. タンパク質や脂質の取り込みと異なり, RNAに関しては,輸送されるRNAの種類や輸送経路, 輸送の生理的意義など多くが不明である. 本研究は, ミトコンドリア内の核コードRNAの機能や輸送機構を明らかにするために, ミトコンドリア内に輸送されうるRNAを網羅的に検出,同定することを目指した. これまでに,ヒトや分裂酵母から単離したミトコンドリアのRNA-seqが複数報告されている. しかし,従来の方法でトランスクリプトーム解析を行うと,サイトゾルのRNAが大量に同定されてしまうことが分かった.そこで, ミトコンドリア内のRNAのみをAPEX2を用いてビオチンラベルし(近位依存性標識), 目的のRNAを高純度で精製する方法を新たに検討した. 酵母細胞から単離したミトコンドリアと, RNAに対するビオチン化効率の高いビオチン誘導体を用いることで, 従来の方法よりも50倍以上効率よくRNAをビオチン化することが可能となった. このビオチン化RNAをアフィニティビーズで精製し, RNA-seq解析に供した. その結果, ほとんどのミトコンドリアDNA (mtDNA) にコードされたRNAが,有意にビオチン化濃縮されたRNAとして同定され, この方法がミトコンドリア内のRNAの検出法として有効であることが示された. そしてRNA-seq解析により,mtDNA由来のRNAと同程度に濃縮された核ゲノム由来のRNAが複数種同定され, これらのRNAがミトコンドリア内に存在する可能性が示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
前年に取り組みを開始したAPEX2を用いたミトコンドリア内RNA特異的ビオチン化法についてビオチン誘導体や反応条件の検討を行い, 従来よりも数十倍効率よくミトコンドリア内のRNAをラベルする手法を確立した. さらに, ビオチン化されたRNAを濃縮し, RNA-seqの解析を行った. その結果, ミトコンドリアDNAにコードされたRNAと同程度にビオチン化濃縮された複数の核コードRNAが再現性高く同定した. 従って、当初の計画以上に進展していると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は, 現在同定しているミトコンドリア内に存在する可能性の高い核コードRNAがミトコンドリア内に局在することをFISHによる細胞内局在観察により証明する. これまでに, DNAプローブを用いて酵母細胞内の核やミトコンドリアに局在する既知RNAの細胞内局在を観察することに成功している. しかし, 本研究で同定した候補遺伝子は細胞内での発現量が少なく, 通常のDNAプローブでは検出が難しいことがこれまでの実験から明らかになった. そこで, TSAによるシグナル増幅法を利用してRNA検出の最適化を行い, ミトコンドリア内に少量に存在する可能性のあるRNAを検出することを目指す. ミトコンドリア内の存在が確認されたRNAについては、酵母もしくは哺乳類細胞を用いてノックアウト細胞を樹立し、ミトコンドリアの機能への影響を検証する. さらに, 同定したミトコンドリア内に存在する核コードRNAを指標として, ミトコンドリア内へRNAを輸送するトランスロケータの探索を行い, ミトコンドリアへのRNA輸送の分子機構の解明を目指す. 一連の成果をまとめて, 学会発表及び論文投稿を行う.
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備考 |
アウトリーチ活動 日本科学未来館内の研究施設であることから2021年度は小学生, 高校生, 大学生を対象としたラボツアーを計7回行った。 また, 高校2年生を対象とした授業を1コマ担当し, 研究者という職業についての発表及び質疑応答を行った。
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