翻訳開始に必要なRNA結合タンパク質であるeIF4AにはeIF4A1とeIF4A2という2つのパラログが存在する。両者は機能的な差異はないと考えられてきたが、これまでの解析からeIF4A1とeIF4A2の間に潜む選択性が明らかとなった。RIP-seq法によってeIF4A1とeIF4A2に結合するmRNAを網羅的に解析すると、eIF4A1に結合しやすいmRNAとeIF4A2に結合しやすいmRNAが存在し、特にリボソームタンパク質をコードするmRNAはeIF4A1に対する強い結合バイアスを示していた。 本年度はその理由を検討するため、免疫沈降と質量分析を組み合わせてeIF4A1に強く結合する配列特異的なRNA結合タンパク質を網羅的に探索した。候補として得られたLARP1はリボソームタンパク質をコードするmRNAを特異的に認識するRNA結合タンパク質である。そこで、LARP1をsiRNAでノックダウンしてRIP-Seqを行ったところ、リボソームタンパク質をコードするmRNAの結合バイアスがeIF4A2側にシフトした。よって、LARP1がeIF4A1とリボソームタンパク質をコードするmRNAの選択的結合を促進していることが明らかとなった。 LARP1はmTORキナーゼの活性が低下した際の翻訳抑制に重要であることから、この結合バイアスとmTOR阻害の関係性を検討した。CRISPR/Cas9システムによって作製したeIF4A1およびeIF4A2のKO(knock out)細胞にmTOR阻害剤を与え、リボソームプロファイリングによって翻訳変化を解析した。その結果、eIF4A1KO細胞ではmTOR阻害時におけるリボソームタンパク質の翻訳抑制が弱くなることが分かった。以上から、mTOR阻害時の翻訳抑制には、eIF4A1との選択的な結合が重要であることが明らかになった。
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