研究課題/領域番号 |
19J00938
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研究機関 | 東京女子大学 |
研究代表者 |
寺田 佐恵子 東京女子大学, 現代教養学部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 自然環境保全 / 獣害 / 地域開発 / 観光 / アフリカ / アフリカゾウ / 地域住民 / 国際世論 |
研究実績の概要 |
ガボン共和国での研究実施体制を整え、獣害及びゾウとの共存に対する住民認識についての調査を実施した。また、ワシントン条約(CITES)第18回締約国会議(CoP)に参加し、アフリカゾウ保全を取り巻く国際的な動きについての情報収集を行った。ガボンでは、本研究の体制構築の過程で、ゾウの生態・獣害対策・文化人類学などの様々な専門性を有する複数の研究機関に属するガボン人研究者を含む形で、カウンターパート機関(熱帯生態研究所)を中核とした共同研究チームの設立に至った。また、保全当局(国立公園庁)のゾウ保全及び獣害対策の関係者とも、良好な情報共有体制を構築することができた。現地調査は、2019年12月~2020年1月にガボン南西部のムカラバ・ドゥドゥ国立公園東部で行った。公園と最寄りの地方都市との間に位置する10村で、住民を対象に、アフリカゾウを含む野生動物による獣害の現状、実施している対策、野生動物や公園による便益などについての認識調査を行った。その結果、当該地域では、公園からの距離に関わらず、住民にとってゾウ被害は甚大であり、住民はゾウに対する強い憤りの念を有していることが明らかになった。一方、公園や野生動物に関する研究活動・観光などから経済的な便益が得られる場合には、ゾウとの共存生活に対する寛容性が高まることが示唆された。また、住民の発言と当該地域の人口の変動から、アフリカゾウによる農作物被害は、食料や収入の減少を通じて、住民の人口流出や廃村の要因の一つとなっていることが示された。CITES/CoPの議論からは、個体数が安定・増加しているアフリカゾウ個体群を有する国々は、ゾウ被害に苦しむ住民への補償や保全インセンティブとして、持続可能なゾウの皮や牙などの取引から得られる利益を求めるものの、国際取引の再開は投票で否決される状況が継続していることなどが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ガボン共和国への2回の渡航を行い、自然科学から社会科学まで多様な専門性を有するガボン人研究者との共同研究体制を構築し、住民認識についての調査を実施した。現在得られた成果に基づく論文を執筆中であり、2020年度早い段階での公表が期待される。国際的な議論についても、計画通り、ワシントン条約(CITES)の締約国会議(CoP)に政府代表団の一員として参画し、行政への貢献と並行して情報収集を進めた。CoPでの議論については、アフリカゾウ以外も含めた附属書改正提案に対する各国の投票態度の分析を行い、学会発表を行った。その他、CITES有識者として国内外のアフリカゾウや自然資源利用に関する会合に参加し、識見の向上とアウトリーチ活動を行った。フィールドから国際会議まで多様な活動を行い、研究を進展させた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の調査から、森林が多いガボン農村部においては、保護区からの距離に伴うゾウ被害の減少傾向が他国ほど顕著ではないこと、また、ゾウ被害が甚大なままでも、保全活動による経済的便益は住民のゾウに対する負の感情を相殺しうる可能性が示唆された。今後、ムカラバ・ドゥドゥ公園周辺の他地域でも同様の調査を行い、このパターンを検証していきたい。当初2か国間を対象に調査を行うことを考えていたが、ガボン国内の多様なゾウの生息状況と、研究体制の構築に要する時間を鑑み、本研究課題ではガボン国内での複数国立公園を対象とした比較研究を行うことを念頭に研究を進めることとする。本年度得られた情報から、セクターを越えた広い視点での獣害対策予算の確保・投入が必要であると思われ、引き続き、この点についての情報収集と検証を進める。新型コロナウイルス感染対策により、調査可能な時期に制約が生じることが見込まれるため、柔軟に計画を見直しながら進めていきたい。
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