研究課題/領域番号 |
19J00967
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
湯井 悟志 慶應義塾大学, 自然科学研究教育センター, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 量子流体力学 / 低温物理学 / 超流動 / ヘリウム4 / 量子渦 / 量子乱流 / 2流体模型 |
研究実績の概要 |
本研究課題では,超流動ヘリウムの量子乱流における2流体模型の連立ダイナミクスを研究する.液体ヘリウム4は,絶対温度2.17 K以下で超流動状態となる.2流体模型によると,超流動ヘリウム4は「非粘性の超流体」と「粘性の常流体」の混合流体として理解できる.それら2流体の連立ダイナミクスを理解することは,超流動ヘリウムのみならず他のコヒーレントな物質波系の物理学においても重要な意味をもつだろう.以下,本年度に行った主な研究の概要を述べる. (1)熱対向流の量子乱流における速度ゆらぎ.近年の可視化実験により,熱対向流における常流体の速度ゆらぎが測定された.熱対向流とは常流体と超流体が逆向きに流れる対向流のことであり,量子乱流を生成する典型的な実験状況である.その実験によると,常流体が層流である状況において,常流体に異常な速度ゆらぎが生じることがわかった.測定されたゆらぎは,流れ方向が流れ垂直方向よりも大きいという異方性をもっていた.我々は常流体と超流体の2流体連立ダイナミクスの直接数値計算を行い,熱対向流量子乱流において常流体に生じる速度ゆらぎを解析した.結果として,量子乱流が常流体の異方的な速度ゆらぎを引き起こすことがわかった.ゆらぎが生じる機構および相関関数等の統計量を解析し,常流体速度ゆらぎの物理を明らかにした. (2)量子乱流の特徴的なダイナミクス.乱流のダイナミクスは複雑で,一見して完全にランダムな運動をしているように見える.しかし,乱流には何らかの規則性をもった特徴的なダイナミクスが存在していると信じられている.本研究では,2流体連立ダイナミクスの直接数値計算を用いて,量子乱流を構成する特徴的なダイナミクスを探索した.量子乱流の特徴的ダイナミクスとして,「量子渦輪の伝播」と「量子渦の再結合」を取り上げて解析した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の重要なステップは,2流体模型の連立数値計算を実装することである.現在までにその基本的な部分は成し遂げられた.そして,研究実績の概要で述べたように,2流体の連立数値計算を用いて量子乱流を解析することに成功した.具体的には,(1)熱対向流の量子乱流における速度ゆらぎ,(2)量子乱流の特徴的なダイナミクスを研究した.(1)の研究では,2流体の連立数値計算により,熱対向流における常流体の速度ゆらぎを解析した.結果を低温物理学の国際会議QFS2019において発表したところ,Best Poster Awardを受賞するなど高い評価を受けた.さらに,本研究をまとめた論文はPhysical Review Lettersに掲載を受理された.同学術誌は,物理学全般を扱う権威のある国際誌である.(2)の研究では,量子乱流を構成する基本的な素過程を探索した.結果を国内外の学術会議において発表した.それらの会議における議論を受けて,さらに研究を深めた.来年度には論文としてまとめて発表できるだろう.したがって,現在までの本研究課題の進捗状況としては,おおむね順調に進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
現在までに2流体模型の基本的な連立数値計算を導入できた.今後は,2流体連立数値計算を用いて量子乱流におけるいくつかの重要問題に取り組んでいく.その際,それぞれの研究に対応して数値計算方法を調整していく必要がある.次年度に主に行う予定の研究は以下の通りである. (1)量子乱流における特徴的なダイナミクス.研究実績の概要でも述べた通り,本研究では2流体連立ダイナミクスの数値計算を用いて量子乱流の特徴的なダイナミクスについて調べる.量子乱流における特徴的なダイナミクスとして「量子渦の再結合」と「量子渦輪の伝播」を取り上げて,それらを解析する.次年度はそれらに加えて,量子乱流における他の重要な素過程を研究する予定である. (2)量子乱流のT2状態.量子乱流には,異なる二つの乱流状態すなわちT1とT2が存在することが知られている.実験によると,超流動を管に流して流速を上昇させるとまずT1状態の量子乱流が出現する.さらに流速を上昇させると,量子乱流の強度が急に上昇してT2状態へと転移する.この量子乱流の乱流-乱流転移をT1-T2転移といい,量子流体力学における長年の謎である.本研究では,2流体模型の連立数値計算を用いてこの問題に取り組む.T1-T2転移は常流体の乱流転移によって生じるという仮説がある.そこで,まずT2状態の物理を明らかにするため,常流体が乱流状態の量子乱流を数値計算によって再現して解析する. (3)振動ワイヤがつくる量子乱流.量子乱流を生成する方法として,超流動中で物体を振動させるものがある.管に超流動ヘリウムを流してつくる量子乱流は数値計算によりよく調べられてきたが,振動ワイヤのつくる量子乱流はあまりよくわかっていない.本研究では,振動ワイヤがつくる量子乱流を数値計算し,その物理を解明する.
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