本年度は、昨年度に合成したフェノキシイミン錯体を用いて、引き続き単分散PEを異なる分子量で合成した。各種構造解析を行った結果、同じ分子量の多分散試料と比較して、結晶構造サイズ(結晶厚および非晶厚)の分子量依存性は単分散のほうが著しいことがわかった。また、動的粘弾性測定において、重量平均分子量が約15万以上から非晶分子鎖のガラス緩和であるβ緩和が発現することがわかった。さらに、一軸引張試験で得られる応力-ひずみ曲線も分子量が約15万で形状が明らかに変化しており、低分子量の試料ではシャープな降伏形状を示すが、高分子量の試料は降伏形状がブロード化し、第二降伏応力が第一降伏応力よりも高くなった。これらの分子量依存性は、従来の研究で一般に用いられていた多分散試料では観察できなかった結果であり、単分散試料を用いることでPEの分子量依存性を正確に考察できることが可能となった。これらの単分散試料の力学データは、昨年度までに得られた分子量分布を制御したPE試料の力学物性の結果を考察する上で非常に有用であり、今後は単分散試料の基礎データを基に結晶性高分子の新たな変形モデルの構築を進める。
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