研究課題/領域番号 |
19J01053
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研究機関 | 国文学研究資料館 |
研究代表者 |
田部 知季 国文学研究資料館, 研究部, 特別研究員(PD) (70846419)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 俳句表現 / 正岡子規 / 高浜虚子 / 河東碧梧桐 / 俳句革新 / 明治俳句 / 近代俳句 |
研究実績の概要 |
2019年度は2回の研究発表を行い、近代俳句データベースのための基礎作業を進めた。以下、発表に至った成果を中心に研究実施の概要を報告する。 まず、全国大学国語国文学会第120回研究発表大会において、「子規における其角の位置――蕪村評価への一視点――」の口頭発表を行った。本発表では、其角らの「虚栗調」に対する子規の評価を確認し、その延長線上で明治29年頃の子規における「蕪村調」の位置づけを再検討した。 次に、科研費基盤C「明治文芸における新旧対立と連続性―近世文学および日本美術史との関連から」研究会において、「俳句における「新派」の源流――正岡子規の位置づけを再考し秋声会の俳業に及ぶ――」の口頭発表を行った。本発表では、新派俳句に関する明治期の言説を収集し、子規が提示した新派俳句像の恣意性に光を当てた。併せて、当時「新派」の一党と目されていた秋声会の俳業を検証した。 また、『講座近代日本と漢学 第六巻』(2020・4、戎光祥出版)に、「正岡子規と漢詩文――その受容と実践」を寄稿した。本稿では子規の来歴を紹介したうえで彼の漢詩文に関する先行研究を概観し、その文業における漢詩文の重要性を提示した。 さらに、次年度以降の公表に向け論文3本の執筆を進めた。まず、明治29、30年の虚子における「新調」の実態について検証した。次に、正岡子規の俳句時事評に注目し、その表現的特徴を分析した。最後に、明治32年頃における河東碧梧桐の実作や選句、句評を検証し、当時の彼が「主観」や「空想趣味」を広く許容していることを指摘した。 加えて、近代俳句データベースの構築に向けた基礎作業として、新聞『日本』、『小日本』、雑誌『日本人』の俳句欄に掲載された句をデータ入力した。なお、一連の研究過程で天理大学附属天理図書館や日本近代文学館等で資料調査を実施し、従来看過されてきた俳誌上の句を多数確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の目的は、明治期の新聞雑誌に掲載される俳句を収集・分析し、近代俳句の主流を成した日本派の表現的な特色とその変遷を検証することにある。そのなかで、近代俳句データベース構築の基礎作業として新聞『日本』や『国民新聞』、雑誌『日本人』や『ほとゝぎす』の掲載句を電子データ化していく。2019年度は複数の研究成果を学会発表等で公表でき、上記の研究目的に鑑みて十分な成果が得られたと評価できる。 まず、明治29年前後の俳句表現を検証することで、新派俳句興隆期における日本派の位置づけを多角的に捉え直すことができた。子規の俳句革新については従来蕪村との関連が重視されてきたが、本年度の研究ではそこに其角の影響を見出し、子規の実作を再評価するための手掛かりが得られた。併せて日本派の漢語表現に関する調査を進め、次年度以降に論文化する準備を整えられた。 次に、先行論では看過されてきた選句や句評に光を当てながら、虚子や碧梧桐の俳句表現の同時代的な特色について考察できた。当該時期の両者に関する先行研究の多くは、子規による同時代評を拠り所としてきた。2019年度の研究では多様な実作を選句や句評とともに提示し、両者の俳句表現が従来的な評価の枠組みに収まらないことを指摘した。この点については2020年度に雑誌掲載が決定している論文にも反映されており、今後も引き続き検証していくことでさらなる成果が期待される。 さらに、2019年度には明治26年から30年に至る新聞『日本』、『小日本』、雑誌『日本人』の俳句欄掲載句を順次電子データ化した。その過程で研究に資するデータ項目を取捨選択することができ、次年度以降のデータ化作業の効率化が図れた。また、既にこれらのデータを利用することで虚子らによる「新調」の表現的な特色について考察することができた。さらに調査範囲を拡大しており、今後も円滑な研究の進展が見込まれる。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は明治32年から39年までの俳句表現を対象に、以下の4つの論点を検討する。 まず、日本派の第一句集『新俳句』(上原三川・直野碧玲瓏編・子規閲、明31)と第二句集『春夏秋冬』(子規・虚子・碧梧桐編、明34~36)に載る句の初出状況を整理し、両者の俳句表現を対照する。特にいくつかの季題を例に、句集編纂時における選者の偏向性に光を当てる。 次に、明治30年代前半における新興の地方俳誌を調査し、各地の有力俳人の句風や選句の傾向、季題の地域性などを析出する。その上で、『ホトトギス』「地方俳句界」欄で演出される各地方俳壇の個性を批判的に見直す。 また、碧梧桐と虚子の対立図式を再検証するため、碧梧桐を中心とする助詞「も」の流行を天明期の句風と関連づけ、その背景にある変則的な句体の系譜を剔出する。併せて、子規没後の『日本』俳句欄を点検し、当時指摘されていた「調子」の変遷を実地に追跡する。さらに、碧梧桐「温泉百句」(『ホトトギス』、明36)の表現的な特色を、虚子「浴泉百句」(『国民新聞』、明32)との比較を通じて考察する。 最後に、碧梧桐の俳句表現を検証するとともに、従来看過されてきた虚子「秋雑吟」(『ホトトギス』、明36)や「冬雑吟」(同)を元禄期の俳書『北の山』と対比し、「消極趣味」の同時代的な先進性を再評価する。さらに、碧虚両派の句会「俳三昧」と「俳諧散心」に注目し、実作の傾向分析から派閥化の動因について考察する。 以上の研究内容に加え、2019年度に実施した調査の成果を研究論文として公表する。また、引き続き『日本』、『国民新聞』、『日本人』、『ホトトギス』に掲載された句の電子化を進めていく。
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