2020年度は3本の論文が査読誌等に掲載されるとともに、調査過程で入手した文献の資料紹介1篇を公表した。さらに、2019年度に引き続き俳句のデータ入力を実施し、近代俳句データベースのための基礎作業を進めた。 まず、「日本派台頭期における虚子――実作と選句の再検証――」(『「夏潮」別冊虚子研究号』vol.Ⅹ)では、2019年度から継続してきた新聞雑誌の調査を踏まえ、明治30年前後における虚子の俳句表現――助動詞「べく」や「つ」、極端な字余りの頻用――を実地に検証した。次に、「明治三十二年前後の碧梧桐――「客観」と「写生趣味」の見直しを軸に――」(『解釈』66巻7・8号)では、明治32年前後の碧梧桐に焦点を当て、従来的な「客観」偏重、「写生」偏重の碧梧桐像を更新するための論点を提示した。続いて、「碧梧桐における「写生」の位置――明治三十五年前後の蕪村評価を手掛かりに――」(『日本文学』69巻9号)では、上掲論文でも取り上げた既存の碧梧桐像を、「古人」に対する評価という観点から批判的に再検証し、「写生趣味」の碧梧桐対「空想趣味」の虚子という対立図式の妥当性を問い直した。さらに、「〈資料紹介〉河東碧梧桐「大坂の一夜」」(『文藝と批評』12巻4号)では、大阪の俳誌『車百合』に載る碧梧桐の小品文を紹介した。 以上の成果に加え、今後の公表に向けて3本の論文の執筆を進めた。具体的には、明治30年代における虚子の句評、碧梧桐「温泉百句」と虚子「浴泉百句」、明治34年頃の碧梧桐句に特徴的な助詞「も」をそれぞれ取り上げた。加えて、近代俳句データベースの構築に向けた基礎作業として、新聞『日本』、雑誌『日本人』の俳句欄に掲載された句をデータ入力した。一部は部分的な収集に止まったものの、2020年度の研究でもこれまでの蓄積が有効活用できたことから、今後も継続的に句の収集とデータ化を進めていく。
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