研究課題/領域番号 |
19J01068
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
鹿野 悠 慶應義塾大学, 医学部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | ドパミン / オペラント条件付け / GRABセンサー / ファイバーフォトメトリー / 報酬予測誤差 |
研究実績の概要 |
神経修飾物質は生物の内的な状態をどれ程鋭敏に反映するのだろうか。時間だけが過ぎていく状態や、特定の行動を一定回数繰り返していく途中では、外界の状況に変化が無くても自身の内的な状態は変化していき、それに基づいて行動戦略を決める必要がある。本研究では意欲や情動に関与する因子の一つとして知られる神経修飾物質のドパミンに特に着目している。Operant conditioning 中の背外側線条体(VLS)における細胞外DA動態を調べるために、GRAB-DAセンサーを用いたin vivo fiber photometryの実験系確立を行った。VLSに対してアデノ随伴ウィルスを用いてGRAB-DAを発現させることにした。緑色蛍光の発現を観察したところ、広範囲に強い発現が見られた。そこでマウスに対してGRAB-DA virusをインジェクションした後、慢性的にoptical fiberを同一個所に埋め込んだ。マウスが運動したり、報酬ペレットを見つけて食べたりした際にドパミンシグナルの一過的な増加が見られた。次に行動課題中のマウスの位置が追跡できるようなアルゴリズムを開発した。それによって、Fixed-ratio operant conditioningの行動課題中の行動とドパミンシグナルを対応付けて解析できるようになった。細胞外DAレベルの増加は、行動課題のSound, Lever, magazine entryそれぞれで見られた。一方で細胞外DAレベルの一過的な現象も見られた。それはマウスがまだ要求されたレバー押し回数を終えていないのに、エサを求めて餌場を確認した時であった。このように、報酬予測誤差に対応したドパミン放出量の変化を行動と関連付けて検証することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は神経修飾物質の検出系の立ち上げからデータの取得と解析に至るまで、一連の実験作業の実現化に成功した点で極めて多くの進捗が得られたと評価できる。また、当初予定していた光計測方法では内在的な長時間にわたる変動は検出難度が高いと思われていた。主な原因は動物の運動によるベースラインの揺れと、励起光による褪色である。しかしながら本年度確立した計測系(GaAsP)ではこれらの問題を解決してベースラインの変動の検出も可能である。従って内在的な神経修飾物質放出量の揺らぎが認知に与える影響について解析できる状況が整った。具体的には、GRABセンサーをratiometricに測定することで運動によるベースラインの揺れが補正できた。またGaAsPは高感度であるため励起光が従来の10%程度の光強度でも十分にシグナル検出が可能になった。そのため1-2時間程度の計測時間では褪色は観察されなかった。この計測方法を用いた更なる実験展開を計画中である。
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今後の研究の推進方策 |
個体の内的な状況をドパミンがどのように反映しているのか、そしてドパミン神経の操作が下流である線条体の活動をどのように変化させるのかを検証する。その方策として、まずドパミンの動態をGRABセンサーを用いた光計測(ファイバーフォトメトリー)で解析する。私は昨年度すでにこの計測系を立ち上げたため、記録データの蓄積が可能な状態にある。この記録では、報酬獲得などに伴う一過的な濃度増減に加えて、1時間程度にもおよぶオペラント条件付けの課題において数分から数十分のスパンでゆっくりと変化してゆくベースラインの変化を検出することにも成功している。この計測系を利用することで神経修飾物質によって規定される個体の内的な状態を長時間にわたって検出することが可能となった。そしてGRABセンサーとカルシウムセンサーのイメージングを同一個体で実施する。行動課題中のドパミン濃度変化と下流である海馬や線条体の神経活動記録を同時に実施することで、神経修飾物質の濃度変化(スカラー量)が下流の神経活動動態(ベクトル量)をどの程度規定し、それによって行動戦略がどう変化しているのかを解明する。そのために生じるいくつかの問題点のために研究機器や資材の購入による解決を行う。例えば光ファイバープローブは消耗品であるため、多くの購入が必要となる。蛍光測定のデータは1時間の記録で数十GBとなるため、データ保存のHDDなどの設備が必要となる。また負荷の大きい解析を円滑に実施するための高性能デスクトップPCの購入も必要となる。 併せて、投射元の脳領域の細胞種特異的な光遺伝学的操作を行い、内的な状態を人為的に変化させて作用を検証する。また遺伝子改変個体を使用することで、細胞種特異的に神経発火させる条件を整える。これらを全て行動課題に取り組む自由行動下の動物について実施する。3Dプリンターを用いて記録装置を適宜設計し直し最適化する。
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