研究課題/領域番号 |
19J01080
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
増渕 あさ子 同志社大学, グローバル・スタディーズ研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 沖縄戦後史 / 沖縄占領史 / 冷戦史 / 軍事主義研究 / 医療史 / トランスパシフィック・スタディーズ |
研究実績の概要 |
本年度は、国内外での研究調査をすすめるとともに、複数の学会・研究会で研究発表する機会を積極的に持った。 国内調査は、まず沖縄で、沖縄県立図書館・沖縄県公文書館を中心に、米軍統治下沖縄における医療福祉制度に関する資料調査を行った。また、統治下の公衆衛生看護事業を担った元公看や看護師数名にインタビューを実施した。これまで報告者が触れてきたのは、こうした医療従事者によって書かれた記録文書が中心であったが、今回のインタビューによって、記録には書かれていなかった、当時の社会の雰囲気や彼女たちの戦争中の体験についても、知ることができた。医療者へのインタビューは今後も継続して行っていく予定である。沖縄での調査に加えて、東京の国立国会図書館・憲政資料室にて、占領初期の米軍の衛生政策に関する資料収集を複数回にわたって行った。 国外調査として、米国国立国会図書館別館(NARA II)にて 米国の沖縄統治について資料調査を行った。特に、対沖縄の医療福祉政策について米軍の動きとの関連を明らかにすべく、米海軍・陸軍それぞれの医療チームの資料を中心に閲覧した。この結果、軍医が残した沖縄統治に関わる資料が見つかったほか、医療や援助物資の輸送に関わった軍の動きがより明確になり、米軍のロジスティックスの中で沖縄がどのような位置にあり、他の地域とどのように結びついていたかという「輸送」の面から医療と軍事の関わりを考える視点を得たことは今回のNARA調査での最大の収穫となった。 上記研究成果の一部について、国内の研究会、および韓国や米国で開催された学会で報告を行なった。こうした場を通して構築された、学術領域や地域を超えた研究者や医療従事者との継続的なネットワークは、今後研究をすすめ、社会に還元していく意味でも非常に重要なものになると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
資料調査の面において、特に米国国立公文書館で収集した資料は、米海軍・陸軍の動線から改めて米軍沖縄統治を捉えることを可能にするものであり、今後、米軍統治下沖縄の歴史をアジア太平洋地域に横断的に展開する米軍の枠組みの中で位置付けようとする本研究のさらなる進展が期待される。また、インタビュー調査を通して、マクロレベルでの資本・物資・テクノロジーの流れとともに、現場を担っていた個人の医療福祉従事者の経験を丹念に追うことの重要性に改めて気付かされた。特に、個々人や親族間の、しばしば領土的境界を超えたネットワークや地域共同体が、政策が立ち遅れていた沖縄の医療・福祉を下支えをしていたことがインタビューから浮かびあがった。今後の重要な研究課題になると考えている。さらに、国内外での学会・研究会での研究者との議論を通して、本研究課題が、沖縄戦後史にとどまらず、東アジアにおける冷戦の展開や日本における総力戦体制下での社会政策の展開など、複数の研究領域を架橋するものになりうるという確信を得た。 以上より、計画以上の研究の進展があったと判断する。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の研究成果・進捗状況を踏まえ、以下の要領で研究を実施する。 [国内調査] 沖縄県立図書館・沖縄公文書館・沖縄県内の各大学図書館および国立国会図書館を主な調査地として、資料収集を行う。初年度で主な対象とし た米軍・米国資料に加え、本年度は琉球政府の資料および、沖縄の新聞や雑誌において医療福祉政策がどのように議論されていたか精査する。 また、1930年代に、経済破綻に陥った沖縄をめぐって繰り広げられた「沖縄救済」をめぐる議論を再検討し、沖縄の「救済」をめぐる言説が戦 後にどのように引き継がれていったのか検討する。 [国外調査] 初年度に米国国立国会図書館で行なった予備調査をふまえ、本年は、当地にて、米国の対沖縄福祉政策に関して、当時の他地域への政策(とり わけ韓国や台湾、フィリピン)との関係性に特に重心を置いて、包括的な資料調査・収集を行う。ただし、国外調査については、現在進行中の新型コロナウィルス感染拡大の状況に十分留意し、調査期間の短縮や次年度への変更を考慮にいれるなど、柔軟に対応していく。 [学会発表・論文投稿] 学会発表としては、12月に韓国で行われる沖縄学に関する学会での発表を予定している。その他、国内外で発表を積極的に行うと同時に、これまでの調査をまとめ学術誌へ投稿する。
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