本研究では妊娠中の胎仔と母体をつなぐ胎盤に着目している。昨年度まで、既報のトランスクリプトーム解析から選定した胎盤特異的加齢関連遺伝子についてCRISPR/Cas9システムを用いて遺伝子欠損マウスの作製を行った。加えて、自然加齢させたメスマウスを用いて、加齢に伴う雌性生殖器の変化についても解析を行った。
(1) 作製した雌雄それぞれの遺伝子欠損マウスを用いて、妊孕性の確認のため交配実験を行った。8週齢から20週齢までの約3ヶ月間に交配実験を行ったが、予想に反し、作製した全ての遺伝子欠損マウスで正常な妊孕性が確認された。すなわち、トランスクリプトーム解析から選定した胎盤における加齢関連遺伝子は単一の遺伝子欠損のみでは加齢様の表現型を示さないことがわかった。この結果は、加齢したマウスの母体で生じる胎盤の形成不全は複数の因子が関与していることを示唆している。 (2) 昨年度から継続して若齢メスマウスと自然加齢させたメスマウスを用いて、胎盤を形成する以前の胚盤胞、卵子、および排卵時の卵丘細胞について解析を行った。卵子、卵丘細胞、胚盤胞期胚のbulk RNA-seqを行ったところ、卵丘細胞で加齢によって変化する複数の遺伝子が存在したが、特徴的な遺伝子群は見いだせなかった。加えて、既報の通り、卵子においても加齢による遺伝子発現の差異は認められなかった。このようにトランスクリプトームレベルでは若齢卵と加齢卵に違いはないものの、成獣マウスの精子と体外受精させると顕著に加齢卵の受精率が減少した。受精時における加齢の影響を明らかにするために、現在電子顕微鏡を用いた卵子の微細構造の比較を行っている。これまでの進捗として、卵子表面構造に違いが見られているため、詳細な解析を行い、論文として投稿する予定である。
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