研究課題
高齢化の進むわが国において、加齢に伴う腎臓の変化を最小限に留めて慢性腎臓病の発症および重症化を予防することは極めて重要な課題である。これに対して、近年の基礎医学研究の知見から「リンが腎臓の老化を加速させる」という概念が新たに提唱され、生体のリン代謝動態を正常に維持することが腎臓の老化を減速するためには重要であると考えられ始めている。その一方で、近年の技術革新に伴って日常生活全般において座位行動が急速に蔓延し始めており、特に中高齢者では、少なくとも覚醒時間の約6割以上を座位行動で占めていることが明らかにされている。こうした長時間の座位行動は、骨密度の低下(骨吸収の促進)とも関連することも明らかにされている。このことから、座り過ぎの中高齢者は骨吸収の促進に伴う持続的なリンの血中流出と加齢に伴うネフロン数の減少により生体のリン代謝動態が悪化し、腎臓の老化が加速している可能性が考えられる。しかし、これまでに中高齢者の座位行動がリン代謝動態と腎臓に及ぼす影響は明らかにされていない。そこで本研究では、中高齢者の座位行動がリン代謝動態と腎臓に及ぼす影響を検証し、座り過ぎが腎臓の老化を加速させるか否かとその機序を一部明らかにすることを目的とした。本年度の研究では、地域在住の中高齢者における座位行動とリン代謝動態関連指標および腎老化関連指標などの関連性を横断的に明らかにすることを目的とした分析的観察研究を実施した。研究実施計画の通り、地域住民に配布される地域広報紙の広告によって参加者を募集し、適格基準に応じて約300名の研究対象者を選定した。現在までに得られた主な結果は、次に示す通りである。①. 日常生活の中で座位行動の時間が長い中高齢者は腎機能が有意に低値である。②. 1日30分の座位行動時間を等量の中等強度の身体活動時間に置き換えた場合、腎機能が有意に高値を示す。
2: おおむね順調に進展している
本年度の研究では、地域在住の中高齢者を対象とした観察研究を実施し、座位行動と腎機能の横断的な関連性を検証した。その結果、日常生活の中で座位行動の時間が長い中高齢者では腎機能が低いことが明らかになった。さらに、Isotemporal substitutionモデルを用いた解析では、1日30分の座位行動を等量の中等強度身体活動に置き換えた場合、腎機能が有意に高値を示すことも明らかになった。したがって、本年度は当初の実施計画通りに研究を遂行して一定の成果が得られていることから、おおむね順調に進展していると考えられる。
今後の研究では、中高齢者における座位行動とリン代謝動態関連指標および腎老化関連指標などの関連性を明らかにする分析的観察研究を継続し、縦断的な検証も行う予定である。さらに、Baker Heart & Diabetes Instituteへの留学し、座位行動変容介入を行う際の研究手法や注意点などについて詳しく学びながら介入研究の研究計画書を綿密に作成する予定である。
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