本年度は、3年間の研究のとりまとめとして、成果公開を中心的に行った。 本研究では、宗教復興以降の国際関係において、宗教的アクター、宗教的規範が一定の影響を及ぼしていること、そしてイスラーム世界においてはイスラーム法学者たち(ウラマー)のネットワークがそうした営みの主たる基盤であることを明らかにしてきた。 上記の研究成果については、『立命館アジア・日本研究学術年報』に研究報告として投稿し、採録されたほか、イスラーム協力機構(OIC)の役割についてはコラムとして執筆し、書籍『中東・イスラーム世界の30の扉』に掲載された。 宗教的な規範を含んだ形での国際規範形成の過程で、国家間・地域間での政治的な綱引きがみられることも明らかにした。これについては、日本国際政治学会において、口頭発表を行い、多くのフィードバックを頂くことができた。さらに、そのような国際的規範形成には、国家の正統性構築の側面も強い。これについては、笹川平和財団「現代若手中東研究会」において口頭発表を行った。 本年度は国際的な成果公開にも努めた。英国中東学会年次大会では、宗教的な国際規範形成に積極的な寄与を行ってきたヨルダンを事例に、王族の正統性構築と宗教的な国際規範形成とがいかに結び付いてきたかについて英語での口頭発表を行った。また、立命館アジア太平洋大学主催の国際会議”the 19th Asia Pacific Conference”でも英語での口頭発表を行い、こちらでは特にイスラーム法学者たち(ウラマー)が合意をつくる営みの法学上の役割について議論したうえで、新型コロナウイルス感染拡大に伴う規範形成においても、ウラマーが参与し、国家による人びとの活動・移動の制限を認める規範を下支えしており、ここでもウラマーが国家の正統性を担保する役割を果たしたと考えられることについて、研究報告を行った。
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