研究期間3年のうち、初年度の平成31年度(令和元年度)は、「明治初期の神葬祭政策下で形成された墓地観・墓観」を明らかにすることを目的として、近世末期~明治20年頃までの間における神葬祭墓地をめぐる思想や言説について、主に国内の図書館や資料館を活用して資料収集を行い、その内容の分析を行った。また、現存する神葬祭墓地での実地調査も行った。2年目の令和2年度は、「明治中期~大正初期頃における啓蒙主義的・開明派知識人におけるアジア葬送文化に対する評価」をテーマとし、国内における資料収集(『臺灣文化志』(昭和3)、『朝鮮彙報』(大正8)、『臺灣慣習記事』(明治40)など)を行い、内容を検討した。 令和3年度は、当初の計画では台湾現地での資料収集・調査を行う予定であった。しかし、新型コロナウイルス流行のため台湾への出張がかなわなかったため、研究計画の大幅な見直しを行わざるをえなかった。そこで、本年度は海外研究を断念することとし、研究目的のなかでも、近代以降の日本国内で〈あるべき日本の先祖祭祀と墓制〉がいかに構想され現実化されていったのかを、具体的事例にそくして明らかにすることを目指す方針を定めた。具体的には神戸市中央区にある神戸春日野墓地(寛永年間、徳川三代将軍家光の治世に創設されたとされる)を調査対象地とし、当該墓地に関わる文献資料を収集した。また、当墓地を運営する「春日野墓地協会」の役員・会員5名へのインタビュー調査を実施した。400年近い歴史のある当墓地が、いかなる意識や観念によって運営・利用されているかを検討した。 以上の成果についてはすでに中間報告としての内容で「現代都市社会と家墓の継承――神戸市の旧共有墓地を事例に」と題し國學院大學日本文化研究所研究会(オンライン開催)において報告している。次年度初頭までに補足的調査・分析を行い、得られた成果を論文として学術誌に投稿予定である。
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