研究課題/領域番号 |
19J01162
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
笘野 哲史 東京大学, 大気海洋研究所, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | アオリイカ / 生殖隔離 / 繁殖生態 / 集団構造 / 親子鑑定 / 頭足類 |
研究実績の概要 |
1年目の大目的は,アオリイカ属のDNA解析およびアカイカとシロイカ間で異なる繁殖システムを調べるであった. まず研究1)では,アカイカとシロイカ間で異なる繁殖システムを調べるを目的とした.小目的1)-Aとして,飼育下で個体の繁殖行動の特徴を調べた.研究実績として,シロイカにおいては,オス3個体とメス1個体を用いた産卵行動の撮影を行った.得られた産出卵と撮影した動画を解析していく.アカイカは観察実験を行う海上生簀を設置した.申請者はヤリイカの人工授精法を学んでいる途中であり,アオリイカの受精法を確立するうえで非常に有益である.これらの研究は,将来のアオリイカ増養殖にも応用できる意義がある.次に小目的1)-Bとして,産卵場での繁殖集団の特徴を調べた.研究実績として,成熟イカの採集については,漁獲量が多い種子島に複数回にわたって訪問し,漁業者,水産加工会社といった関係者と準備を進め,すでにある程度の個体を採集した.卵嚢採集については,アカイカでは2月に種子島沖に水深別に人工産卵礁を設置したので,5月以降に引き上げ産出卵を回収する予定である. つぎに研究2)では,核DNAマーカーによる熱帯産アオリイカ属の雑種判別を目的とした.実績として,初年度は4月から10月まで渡米し,カリフォルニア大学ロサンゼルス校生態進化生物学の研究室で新規DNA多型マーカーの開発と解析を行った.アカイカとシロイカ両種から予備結果が得られた.結果の一部は,2019年に開催されたイカタコ研究会にて発表した.さらに申請者は,2019年にMSマーカーに関する学術論文を新たに出版し,その解析方法をアオリイカに応用する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目の研究目的は,アオリイカ属のDNA解析およびアカイカとシロイカ間で異なる繁殖システムを調べることであった.総評として,研究を進めるに当たっての予備実験や関係者との連携は進んでおり,概ね順調に進展しているとした.以下,具体的な進捗状況を記す. 研究1)アカイカとシロイカ間で異なる繁殖システムを調べる シロイカにおいては予備実験を行い,産卵行動を撮影した.現在は得られた産出卵と撮影した動画を解析している.アカイカにおいては,種子島に海上生簀を設置している.産卵場の繁殖集団をしらべる研究では,漁業者,遊漁者または市場関係者から成熟イカを採集し,生物学的データを収集する.前年度に漁業者,水産加工会社といった関係者とは協力体制を整えた.卵嚢採集については,すでに人工産卵礁を設置し,5月以降に引き上げ産出卵を回収する予定である. 研究2)核DNAマーカーによる熱帯産アオリイカ属の雑種判別 初年度は4月から10月まで渡米し,カリフォルニア大学ロサンゼルス校生態進化生物学の研究室で,DNA多型マーカーの開発と解析を行った.核DNAから大量の一塩基多型を調べるRAD-seq法の一通りの実験手法は学んだものの,報告者が持参した検体はDNA量および質に乏しかった.そのため,引き続く解析は日本で行う.シーケンス結果は米国大学のサーバーにあるため,現地の研究者と共に,引き続き研究を進めていく.
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究計画:「飼育と人工授精による異種交配試験および隔離障壁の種内変異を調べる」 今年度は,前年度に確立した手法を用いてデータの収集を行う予定であるが,新型コロナウイルス感染症の影響で国内外の出張や実験に支障が出ており,予定通りの進展が見込まれない可能性が高い.今年度はその影響をもりこんだ研究計画とした.今後も予期せぬ事態が続く可能性があるので,状況に応じて修正して対応していくつもりである. 研究1)前年度から引き続き,アオリイカ両種の産卵行動と野外個体の形態を調べ,データを重ねる.野外個体の調査では,種子島,徳島および福岡県を予定している.初年度で漁業者や水族館関係者と協力した実験を引き続き行い,アカイカとシロイカのそれぞれの行動観察実験を行う.異種間での個体間相互作用をビデオカメラによって記録し,同種内のそれと比較する.同時に両種とも入手した場合には,両種を一つの水 槽に入れて異種交配実験を行う.新型コロナウイルス感染症の影響で国内調査が難しい場合,現地の協力者に依頼するなどして対応する. 研究2)初年度にシロイカ及びアカイカから得たDNA多型を,種間や集団間で比較し,種内での遺伝的差異を定量する.不足したデータは適宜追加で実験を行う.統計学的処理を進めると並行して,学術論文の執筆もすすめる. 研究3)当初の予定では,インドネシアを中心に熱帯域のアオリイカ属を採集し,研究1)と2)で隔離障壁と推定された繁殖形質を調べ,種内変異を評価する予定であった.しかし,新型コロナウイルス感染症の影響で海外出張が不可能となる可能性が高い.その場合は,海外の研究者にサンプル採集を依頼する,来年度に変更等で対応する.
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