研究課題/領域番号 |
19J01247
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐藤 紗良 東京大学, 東洋文化研究所, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | アルハンブラ宮殿 / ヘネラリーフェ離宮 / ランドスケープ / 修復 / 都市空間 / グラナダ / イスラム庭園 / イスラム建築 |
研究実績の概要 |
本研究は、スペインのグラナダを対象とし、庭園空間概念を応用しつつ都市全体と個別建築の修復を分析することで、都市建築の歴史的重層性を美学的に考察することを目的としている。初年度となる2019年度はアルハンブラ宮殿と接続するヘネラリーフェ離宮に焦点を当て、その建築及び庭園空間を手掛かりに都市空間をいかに分析するかという視点を確保することを指針とした。申請時の年次計画に沿い、年度前半は近代修復の基礎概念の再検証及びイスラム庭園・建築の理論研究の吸収に充てた。また、前年度に発表した近代ランドスケープ論とアルハンブラの庭園修復にかんする二論文を軸に、国際会議にてアルハンブラの庭園修復と修復家のランドスケープ観にかんする発表を行った。同発表では19世紀から20世紀にかけて歴史的背景や修復家個人の理論など様々な要因を含んだ上でランドスケープ観や修復論自体が大きく変化したことを指摘し、庭園空間におけるランドスケープ観の創出と修復理論の関係を明らかにした。 年度後半の長期海外渡航では複数の研究機関において文献・資料調査及び研究者との意見交換を行った。またアルハンブラ宮殿内の一般立入禁止区域における実地調査及び造園家への聞き取り調査、さらにアルハンブラの庭園における修復実践や修復理論、グラナダの都市計画史にかんして植物学研究者との意見交換を行った。特に考古学的研究と現在アルハンブラの造園に携わっている職人のインタビュー調査との比較により、現在と19-20世紀の庭園空間における修復状況の差異が明らかになった。ここでの成果は国際学会用の査読論文にまとめ、発表許可を得た。また、ヘネラリーフェ離宮における20世紀の二名の修復家の修復実践と理論にかんして、いかなる差異があったのか、それらが彼らのランドスケープ観とどうつながっていたかを分析し、査読要旨にまとめ、国際学会(2021年度に延期)に申請した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アルハンブラ宮殿の建築及び庭園空間を軸とし、概ね順調に調査が進展した。前期は主に先行研究や現在進められている調査から、修復やイスラム庭園・建築についての知識の吸収及び古い情報のアップデートを行った。国内の学会にも多数参加し、関連研究者との情報交換も行った。後期には資料調査に加えて実地調査を行い、建築学・考古学的視点からの考察を行うことによって、美学的観点からの自身の論を実証的に補強することができた。本研究はこれまでの単独調査で得た学術的知見を基盤としているが、過去の現地調査から数年経過していたため、この長期海外渡航にてその間に行われた修復や研究のデータを補完した。また、アルハンブラ宮殿財団記録保管所において、保存されている過去の平面図や写真を時代ごとに丹念に比較分析することで、第一次資料の不正確さを洗い出した。こうした視覚情報及び現地での実証調査の両結果をまとめ、修復家のランドスケープ観と修復理論に合致性が見られることを検証して論文化し、2年目以降に都市空間へと分析を広げる足がかりとした。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度はグラナダ都市空間及びフランスやイタリアのイスラム関連の研究所まで調査を広げる予定だが、コロナウイルスによるロックダウンが続く現状を鑑みると、年度内にこれらの調査を実行できるかは不明である。グラナダの現地調査にかんしては、アルハンブラ宮殿を囲む城壁の裾野に広がる歴史的なアルバイシン地区及び宮殿内の建築・庭園空間の調査・分析の同時進行を予定している。具体的にはグラナダ考古学建築研究所の実地調査プロジェクトへの参与、インタビュー調査、現地の記録保管所や市役所における史料調査が中心となる。特に記録保管所における高画質データは未だ館内でしか見ることができず、2019年度は主要データのみのチェックにとどまってしまったため、2020年度以降に、より綿密かつ広範な調査が求められる。 他方で、20世紀の修復家であるレオポルド・トーレス・バルバスとフランシスコ・プリエト=モレーノの当時の都市空間や庭園に焦点を当てた一次文献を精読し、修復家のランドスケープ観や修復理論を深掘りすることも重要である。これらのフィールド調査、データ検討、理論分析を同時に行うことによって結論を導き出すことが可能となるからである。したがって、コロナ禍においてはまず理論分析を中心に進め、2019年度中に得たデータや現地研究者からのデータなどによって情報を補完しつつ現地調査に備える。得た成果は最終的に国際学会及び査読付き論文誌にて発表する。 なお、2020年度には3つの学会発表を予定していたが、査読付き国際学会の1つは現時点で2021年度への延期が決定している。そのため2020年度は論文誌への投稿が中心となる可能性も視野に入れつつ、柔軟に対応していく必要がある。
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