研究課題/領域番号 |
19J01247
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐藤 紗良 東京大学, 東洋文化研究所, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2023-03-31
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キーワード | アルハンブラ宮殿 / ヘネラリーフェ離宮 / ランドスケープ / 修復 / 都市空間 / グラナダ / イスラーム庭園 / イスラーム建築 |
研究実績の概要 |
本研究は、スペインのグラナダを対象とし、庭園空間概念を応用しつつ都市全体と個別建築の修復を分析することで、都市建築の歴史的重層性を美学的に考察することを目的としている。 最終年度となる本年度は、まず新型コロナウイルスの影響により滞っていた、歴史地区であるアルバイシンの実地調査を行う予定であった。また、2年間で得られた洞察をベースに、歴史上大きく変化した、グラン・ヴィアという大通りに沿った都市区画をピックアップし、現在統一的に見える都市の歴史的重層性の差異を調査する計画であった。しかし、年度前半にはまだスペイン渡航が実施できなかったため、20世紀の修復家レオポルド・トーレス・バルバスとフランシスコ・プリエト=モレーノによる、当時の都市空間や庭園に焦点を当てた一次文献を精読し、彼らのランドスケープ観や修復理論、都市計画論を深掘りすることに注力した。これにより、今までに得た知見、1年目のフィールドワークとデータ検討、2年目に行った理論分析を加えて、多様な方向から研究を行うことが可能となった。美学的観点からの分析をより深めるべく、トーレス・バルバスの植物の使用方法に焦点を当て、アガンベンの風景論からの分析も試みた。 また、こうした研究内容を広く一般の人に知ってもらいたく、スペインのイスラーム庭園、特にアルハンブラ宮殿にフォーカスして、東京ジャーミイにてオンライン講演(特別公開文化講座)を行った。 なお、8月1日から私事により研究を中断している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2021年度はスペイン始めヨーロッパ諸国での長期滞在を目指していたが、新型コロナウイルスによって渡航を断念した。そのため昨年度に続き当該年度は、文献精査とこれまでの研究データを比較した理論的な分析を中心に行った。その際、より深い美学的観点からの分析を目指してアガンベンの風景論を扱ったものの、8月からの研究中断によりそれ以上の考察を進められていない状況である。ただ、こうした美学的分析を試みたことにより、歴史研究という観点からも論をより深める重要性を再認識することはできた。 また、本研究にはやはり現地調査が重要となる。特に都市空間や庭園空間の変化は著しく、間断なく発掘調査も行われているので、年ごとに最新の情報が必要となる。アルバイシン地区やグラン・ヴィアの分析には特に視覚情報や現地資料が必須となるが、実際に現地の状況や史料を目にすることができなかったため、進捗状況は「遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
研究再開の折には、新型コロナウイルスにより行えなかったアルバイシン地区とグラン・ヴィアの現地調査を行う予定である。具体的にはインタビュー調査や研究者との意見交換、記録保管所や市役所における史料調査が中心となる。記録保管所における一部の史料や高画質データが現地でのみ閲覧可能である点、また複数の施設に必要なデータが保管されており、より綿密かつ広範な調査が求められる点からも、現地調査は必須である。最終的にはこれまで行ってきた文献調査を長期現地調査で得た成果と照合し、査読付き論文誌にて発表する。なお、研究計画ではアルバイシン地区とグラン・ヴィアは2年間かけて調査予定であったため、調査範囲を一部に絞るなど、柔軟な対応が必要となる。 なお、実地調査が不可能である場合、引き続き理論研究を中心に行うこととなる。文献調査にかんしては、グラナダ内で活躍した修復家のみならず、スペインにおける近代都市計画理論の祖とも言える人物で、バルセロナ市街地の整備拡張計画を作成したイルデフォンソ・セルダ・スニェール(Ildefonso Cerda Suner, 1815-1876)に着目する。彼が構想した「ウルバニサシオン urbanizacion(都市計画/都市整備)」 という語はプリエト=モレーノの「ウルバニスモ」の思想源泉でもあるため、彼の理論は本研究の一つの鍵となるからである。 また、引き続きグラナダ大学のマニュエル・カサーレス・ポルセル教授や現地研究者からのデータによる情報の補完も続けていく。 今後も世界情勢に鑑みつつ、現地及び国内研究者らと連携した文献調査やデータ及び資料の精査が研究の核となる可能性を視野に入れ柔軟に対応する。
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備考 |
依頼講演(特別公開文化講座「アルハンブラから見るイスラーム庭園」東京ジャーミイ、4月24日)
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