本研究では、マウスにおいて確立された精巣の器官培養によるin vitro精子形成系をヒトへ応用することを目的とした。しかし現在のマウス培養系を用いたヒト組織の培養では1-2週間ほどで高度に線維化してしまい、その後の培養継続が難しかった。加えて、現在までマウス以外の哺乳類では、体外で分化させた生殖細胞から次世代個体を作出した例は報告されていない。そこで我々は、マウスのみに適合する精巣培養系を他の哺乳類にも応用するべく、ラットを対象として実験を行ってきた。前年度までに我々は培養法や培養液の検討を繰り返し、培養中の酸素濃度やホルモン類の添加などがラットのin vitro精子形成系開発において、未分化なラット雄性生殖細胞を半数体である円形精子細胞まで分化させることに成功した。
本年度は、培養系のさらなる最適化のために、半数体まで分化した生殖細胞に特徴的な先体構造にGFPが集積するトランスジェニックラットを導入して実験を行った。また、培養中の培地に含まれるメタボライトの経時的変化のデータを取り培養液の改善を試みた。メタボロミクス解析の有用性はいまだはっきりと見出すことはできていないものの、様々な試行錯誤の末に伸長精子様の細胞までの分化と、分化誘導した円形精子細胞を用いた顕微授精によりラット産仔を作出することに成功した。本研究で我々が得た知見は、ヒトを含む他の哺乳類の精子形成を体外で誘導する系を開発するうえでも有用であることを期待している。現在学術誌への投稿を準備している。
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