本年度は次に述べる二項目について、研究を行なった。 【1】Virasoro頂点作用素代数と量子群の双対性 本研究は、前年度から続く、Kytola氏との共同研究である。頂点作用素代数の中でも特に基本的と考えられる、Virasoro頂点代数と、やはり最も基本的な量子群の例であるUq(sl2)の双対性を研究している。前年度は、量子群Uq(sl2)の表現を用いた、共形場理論の相関関数の構成を応用することで、Kac tableの一行目に現れる、Virasoro頂点作用素代数の表現のフュージョン則、及び結合律を明らかにした。本年度は、まず昨年度に得た結果を論文にまとめ出版した。さらに、Peltola氏、Runkel氏を新たに共同研究者に迎え、Virasoro頂点作用素代数とUq(sl2)の双対性を圏同値として定式化するための研究を開始した。 【2】対称群の正規化された指標とBooleキュムラントの研究 対称群の表現論の漸近的振る舞いを調べる、という問題はVershikとKerovによって創始され、「漸近表現論」という名の下に、今日に至るまで様々な発展を見せている。例えば、Bianeは対称群の指標の漸近的振る舞いを明らかにするとともに、自由確率論との関係を見出した。本研究では、ダイアグラムを用いた計算に由来する組み合わせ論を用いて、正規化された指標をBooleキュムラントの多項式として表したときに、その係数が非負整数であることを証明した。これは、RattanとSniadyによって、予想として提出されていた主張である。この結果の、漸近表現論への応用は、今後の課題である。
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