本研究推進の上で最も重要となる耐塩性Vigna属野生種に感染するウイルスベクターの開発に着手した。ヒナアズキ (V.riukiuensis) およびハマササゲ (V.marina) の自生地である沖縄県宮古島に渡り、当該植物をサンプリングした。収集サンプルから抽出した全RNAを用いてRNA-seqを行なった結果、Cucumber mosaic virus (CMV) およびBean common mosaic virus (BCMV) が検出された。特にCMVに関しては他の植物種におけるウイルスベクターとしての利用例が多く、耐塩性Vigna属野生種においても有効なウイルスベクターが構築できると考えられた。そこで検出されたCMVをVigCMVと命名し、その完全長塩基配列を決定した。 CMVは3本のRNAからゲノムが成り立つウイルスである。申請者は3本の完全長cDNAをそれぞれクローニングし、プラスミド内の植物恒常発現用プロモーターの下流に組込んだ。また、VigCMVのRNA2およびRNA3の塩基配列を改変し、外来DNA断片を組込むための制限酵素サイトを付加し、VigCMV-REと命名した。 作成したプラスミドDNAをアグロバクテリウムに形質転換し、アグロバクテリウム懸濁液による遺伝子一過的発現システムを利用したウイルス感染系を構築した。構築したシステムをタバコ (Nicotiana benthamiana) に供した結果、VigCMVおよびVigCMV-REはいずれもタバコにおいて全身感染した。一方で、同システムをヒナアズキおよびハマササゲに供したところアグロバクテリウム懸濁液が葉に浸潤せず、VigCMVの感染が認められなかった。そこで現在は、タバコで増幅したVigCMVおよびVigCMV-REを精製し、ヒナアズキおよびハマササゲに機械接種するシステムの構築を進めている。
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