最新の衛星観測により得られた大気中の水同位体比をデータ同化し、天気予測の精度向上を目指す研究を行った。水同位体比とは、存在量の多い水素原子Hと酸素原子16Oに対する、重い同位体原子(重水素Dと18O等)の存在比のことを指し、水の相変化(蒸発や凝結)に対して感度を持つ。近年開発されたフーリエ変換赤外分光計であるIASIセンサによる水同位体比観測に使用し、データ同化実験を通して水同位体が気象場を大幅に改善することを示した。水同位体の観測数は既存の運用されている観測データの数に比べわずか50分の1程度であるが、追加で水同位体比を同化した場合、理想実験上で対流圏中層において風速、比湿、温度場が10%以上改善した。また、熱帯の熱構造へのインパクトを解析し、同位体の効果は対流活動が活発なハドレー循環の上昇部で卓越し、大規模循環を通して非局所的な改善をもたらしていることを示した。さらに、データ同化の変数局所化法を応用し、同位体比の力学的プロセス(輸送)に比べ、熱力学的プロセス(相変化)の方が予測の精度向上に重要であることを解明した。この成果は学術論文としてGeophysical Research Letters誌に出版され、Science誌371巻6534号(2021年3月12日発刊)のEditor’s Choiceに選出されている。
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