研究課題
大気において帯状に水蒸気を大量輸送するAtmospheric River (AR)の予測改善に関して研究を進めた。Geophysical Research Lettersに出版された論文では、主に熱帯におけるマッデン・ジュリアン振動(MJO)と太平洋・北米パターン(PNA)の低周波成分を組み合わせることで、ダム管理等に有効なARの季節内スケール(2-5週間)の予測改善を示した。続いて、MJOがインド洋にて一定期間活発であった過去のイベントを選び、MJO発生後に太平洋岸北西部にARをもたらしたイベント(ARイベント)とそうでないイベント(noARイベント)の違いを解析した。ARイベントでは、アルーシャン低気圧が深まりARが上陸しやすい状況を作り出し出されているのに対し、noARイベントでは、北太平洋に大規模なリッジが発達し、高気圧性の水蒸気輸送が卓越していた。さらに線形回帰を用いて、これらのシグナルが、MJO由来のものか、もしくはMJOに依存しないものによるものなのかを確かめた。その結果、MJO由来成分は、太平洋上で遅く移動する大規模水蒸気輸送をコントールしていた。一方で残りの成分は、アラスカ湾を中心とした中緯度の低周波振動に顕著な違いが表れた。本論文はJournal of Climateに投稿し、現在査読中である。水蒸気同位体比に関しては、9月には初めて衛星の水同位体比の観測を同化した論文がScientific Reportsに受理され、10件以上の新聞雑誌等に記事が掲載された。現在は、より実用性を高めるため、衛星とモデルの水同位体比の挙動の違いを細部に渡って調べ、その結果を論文にまとめている。また、Averaging kernelという手法をデータ同化システム内に組み込み、水蒸気同位体比をより観測に近い状態での同化を可能とした。
2: おおむね順調に進展している
学術論文を2件出版、1件査読中であり、順調に進んでいる。
本年度は、大気の川の季節内スケールでの発生要因を調べるため、引き続き線型逆モデルを使用し、熱帯と中緯度のそれぞれの運動による影響を詳しく調べる。また、昨年度の水同位体比の衛星観測とモデルの比較、データ同化システムの改善等に基づいて、実際の水同位体比観測を使ったデータ同化研究を進めていく。
すべて 2021 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 6件)
Geophysical Research Letters
巻: 48 ページ: 1-10
10.1029/2021GL094078
Scientific Reports
巻: 11 ページ: 1-9
10.1038/s41598-021-97476-0