研究課題/領域番号 |
19J01416
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
廣本 由香 法政大学, 人間環境学, 特別研究員(PD) (90873323)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | コミュニティ / 移民 / パイナップル / 地域農業 / 環境運動 / 迷惑施設 / 生活環境史 |
研究実績の概要 |
採用第1年度目の調査・研究は、年度前半でフィールド調査を重点的に行うことで、パイン生産をめぐる地域農業とコミュニティに関する一次データ収集を積極的に実施した。実施計画をもとに調査対象地に設定した八重山諸島と沖縄本島での調査を精力的に進めた。予定の調整上、長期的なフィールド調査の実施はかなわなかったが、短期的なフィールド調査を複数回実施した。地元農家を中心に住民への聞き取り調査を繰り返し行い、公民館行事に参加して参与観察調査を行った。さらに八重山のフィールド調査においては、石垣市立図書館や石垣市役所の資料室を活用し、パイン生産や産業に関する地元紙や行政資料の収集を大幅に進めた。こうした資料調査を通して一次データの裏付け作業や補填作業を行った。 年度後半で、フィールド調査から得られたデータの分析・整理に取り組んだ。さらに、社会学的・人類学的に議論されているコミュニティ論や社会運動論から事例やデータを議論するため、先行研究や理論研究を精力的に進めた。研究成果の発表として、2回の学会報告と1本の論文投稿を行った。学会報告の1つ目は、第92回日本社会学会大会(2019年10月)でパイン生産を背景にした農業移民と共同墓地に関する自由報告を行った。2つ目は、第60回環境社会学会大会(2019年12月)において、農村地域に立地されたごみ焼却施設と住民運動に関する自由報告を行った。2回の学会報告を通じて、沖縄離島の農業と地域コミュニティの諸問題を多角的に示し、コミュニティの多面的な社会過程を論じた。さらに、後者の学会報告をもとに、ごみ焼却施設をめぐる環境運動に関するデータ分析を深化させ、コミュニティ論や社会運動論の理論的側面を発表時の内容から再考することで、環境社会学会の学会誌『環境社会学研究』に論文を投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
採用第1年度目の研究は、年度前半で沖縄・八重山でのフィールド調査(聞き取り調査、参与観察調査、資料調査など)を重点的に行うことで、農業と地域コミュニティに関する一次データの収集・蓄積を積極的に進めた。沖縄・八重山のほかに、地理的特徴や自然条件、歴史、多民族・多文化、観光産業など多くの点で共通性があるハワイ諸島へのフィールド調査を実施した。ハワイでのフィールド調査において得られた農業や産業、移民の歴史に関する豊富な知見は、沖縄・八重山の事例との社会的・歴史的な共通性と相違点を見出すことができ、事例分析やデータ分析の際に多角的な視野や解釈をもたらした。しかし、実施計画で予定していた奄美諸島(奄美大島・徳之島)へのフィールド調査はスケジュール調整を理由に実施することができなかった。そのため、奄美のパイン生産に関する論文や郷土資料、地元紙の記事を用いることで歴史的事実の確認や整理を進めた。 年度後半でフィールド調査から得られたデータの分析・整理を進め、社会学的・人類学的なコミュニティ論への接続のために、先行研究や理論研究を精力的に取り組んだ。研究成果の発表として、2回の学会報告と1本の論文投稿を行った。さらに、『環境社会学研究』(環境社会学会)に自由投稿論文を投稿した。2020年4月現在、投稿論文ついては査読審査を経て修正の段階にある。採用第1年度目は研究実施計画に沿って、フィールド調査でのデータ収集や記録化を着実に進め、その成果の発信を意欲的に行ったことで、調査・研究はおおむね順調に進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
採用第1年度目は地域密着型のフィールド調査を行うことで、 調査地域でのネットワークを広げ、地域の人びとのあいだでラポールを形成し、調査・研究の環境を作り上げた。こうした調査・研究の環境づくりは、採用第2年度目のフィールド調査の円滑な実施や展開に大きく影響すると考えられる。本年度もフィールド調査を中心に実証的研究を進めていく。第1に、八重山(石垣島、西表島)のパイナップル収穫時期と地域(公民館)の年中行事が集中する2020年4月から9月にかけて長期的なフィールド調査を実施し、パイナップル生産とコミュニティに関するインタビュー調査と参与観察調査を行う。インタビュー調査と参与観察調査から得られたデータの裏付けや補足のため、石垣市立図書館で地元紙(八重山毎日新聞・八重山日報)と行政資料(市議会会議録・委員会会議録)などの資料収集と整理を進めて分析を行う。第2に、2020年10月から2020年12月にかけて、フィールド調査で得られたデータ整理と分析を進めると同時に、国内の環境運動研究に関する先行研究を進める。適宜、補充調査として短期的なフィールド調査を実施する。第3に、2021年1月から3月にかけて、事例のデータ分析をもとにコミュニティ論や社会運動論、農業・食料社会学を主軸に議論を展開させ、『地域社会学会年報』(地域社会学会)に投稿する論文の執筆を進める。
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