本研究では、熱帯樹木を対象にリン欠乏に対する樹木の適応とそれらが樹木の個体群動態を通して森林バイオマスにどのような影響をあたえるかを明らかにすることを目的とする。前年度は、個体群動態を解析することによって、樹木種の個体群動態特性を調べ、低リン環境に適応した種はそうでない種に比べ、低リン環境で成長速度や生存率を維持できることを示した。
海外でのフィールド調査をメインとする本年度の研究計画は、日本国内と現地における新型コロナウイルス感染拡大の影響により実施できなかった。しかしその中でも、先行研究のメタ解析により、熱帯樹木が土壌養分環境の変化にどのように応答するのかを解明した。メタ解析の結果、窒素やリンの単一栄養素の施肥は、二次林、実生(明環境)の成長速度を有意に上昇させていたのに対し、原生林の成長速度に対しては大きな影響を与えていなかった。このことは、樹木のサイズが小さい時には貧栄養による栄養制限が強まる可能性を示唆している。さらに、樹木個体内の栄養動態モデルにより、樹木の貧栄養への適応(葉の寿命をのばす、吸収効率を高める)が栄養制限を弱める効果を持つこと、しかし、その効果はサイズが小さい時には小さくなることを示し、上記のパターンが樹木適応とサイズの関係により説明されることを示した。この結果により、樹木の貧栄養への適応が樹木の成長や森林のバイオマスに影響を与えるメカニズムの一端を明らかにした。
この成果は、樹木の環境適応と森林バイオマスの関係を解明する上で重要な示唆を与えるものであり、この課題の目的達成に寄与する重要な研究である。
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