本研究は、熱帯樹木を対象にリン欠乏に対する樹木の適応とそれらが樹木の個体群動態を通して森林バイオマスに及ぼす影響を明らかにすることを目的とする。研究期間を通して、(1)メタ解析により、世界の熱帯原生林がリンの添加に対し強い反応を示さないこと、(2)熱帯雨林のリン欠乏に適応した種の成長・死亡の特性を明らかにした。これらの結果は、リン欠乏適応した種は、リンの少ない環境でも成長速度、生存率を維持できており、それによって貧栄養環境でも森林バイオマスが高く維持されていることを示している。 本年度はこれらに加え、レビュー論文を作成し、熱帯樹木の多様なリン欠乏適応メカニズムについてまとめた。網羅的な文献のレビューにより、(1)貧栄養に伴って森林の種多様性が大きくなるという現象が存在すること、(2)リン欠乏適応機構のコストについての研究が遅れていること、について報告した。 特にリン欠乏に伴って種の多様性が高まるメカニズムとして、多様な適応形態が関わっているという新たな仮説を提唱した。リン利用や吸収を効率化するメカニズムが多数存在することで多くの種の共存が促進されている可能性がある。リン欠乏適応と関わるコストについては、現時点では研究が少ないが、貧栄養下で成長速度を維持するために、繁殖に投資する資源が少なくなるなどが考えられる。今後、リンの異なる機能への投資や、その他の元素(炭素、窒素)との関わりを調べていくことが必要である。この結果を受け、葉、材、根の形質と呼吸の関係についても調査を行った。
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