研究課題
本研究課題の柱のひとつである黄金色藻シストに関しては,以下の分析を行った.まず,南大洋大西洋セクターの約30地点(研究航海KH-19-6 Leg 4)で採取した海水濾過試料の定量分析を行い,南大洋大西洋セクターにおける現生珪藻群集組成と黄金色藻シスト存在量,およびそれらの地理分布が網羅的に解明された.その結果,融氷水の影響下にあると考えられる軽い酸素同位体比を持つ海水試料に黄金色藻シストが多く含まれていることがわかった.さらに,南極半島沿岸域において採取された堆積物コア試料(KH-19-6 Leg 4 PC 01)で微化石分析(珪藻化石群集,珪藻存在量,黄金色藻シスト化石存在量)を行なったところ,黄金色藻シスト化石の産出量は,氷山融解を指標するIBRD(漂流岩屑)の産出量パターンと良く一致した.また,これらの分析で完新世中期温暖期における氷床融解イベント(約5000〜3200年前)を検出するなど,完新世の南極半島氷床変動に関する新たな知見も得られた.このように現生試料・化石試料の両者の分析を通じて,黄金色藻シスト化石の産出が融氷イベントの指標となることを裏付ける証拠を得ることができた.これらの成果は複数の国際誌論文として投稿予定である.珪藻化石による古環境復元・古環境プロキシ開発については,以下の進展があった.まず,受入研究機関で習得した珪藻殻酸素同位体比分析の前処理法を改良し,任意の様々な珪藻種を分離・濃集する技術を開発した.具体的には,珪藻殻が発する蛍光の特性がタクサによって異なることを利用して,簡易的な前処理とセルソーターを用いた手法である.本成果は国際誌論文として投稿中である.また,IODP Exp. 382(2019年度初頭に乗船)で得た高解像度の第四紀堆積物 Site U1538の珪藻化石分析が引き続き進行中で,最終間氷期における海氷分布の減少や生物生産量の増大などが検出されている.
令和3年度が最終年度であるため、記入しない。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件)
Nature Communications
巻: 13 ページ: 2044
10.1038/s41467-022-29642-5
ACS Earth and Space Chemistry
巻: 5 ページ: 2792-2806
10.1021/acsearthspacechem.1c00201