研究課題/領域番号 |
19J01504
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
林 雅行 京都大学, 数理解析研究所, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 非線形シュレディンガー方程式 / ソリトン / 質量臨界 / 変分法 / 不安定性 / 強不安定性 |
研究実績の概要 |
本研究では非線形分散型方程式のソリトンとその背後にある方程式の数学的構造を詳細に調べることにより,解が持ちうる様々な挙動(ダイナミクス)を解明することを目的としている.2019年度の主要な成果は次の二つである. 1.微分型相互作用を持つ非線形シュレディンガー方程式(NLS)における変分構造の解明:微分型NLSはプラズマ中のアルヴェン波の挙動を記述する方程式として知られており,可積分構造と質量臨界構造を併せ持っている.本研究では微分型NLSの非線形項に質量臨界構造を保つ冪型非線形項を付加し,少し一般的な枠組みから微分型NLSの変分構造を調べた.付加項の係数に応じた質量条件(大域解が存在するための十分条件)は前年度までの研究で得られていたが,本年度は方程式の変分構造をさらに詳細に調べることで,質量条件が方程式の変分構造が変わる境目を与えていることが分かった.これから特に微分型NLSにおける4πの条件と代数ソリトンの変分的な意味付けを明確に与えることができた. 2.二重冪NLSにおける定在波の不安定性:二重冪NLSは非線形項が純冪の場合と違って,定在波の安定性/不安定性が周波数によって変化し得ることが知られており,安定性/不安定性を決定するのが難しく,多次元では特に顕著である.本研究では二重冪の相互作用が反発的・集約的であるときを考察し,定在波の不安定性・強不安定性を証明した.この方程式には周波数がゼロで空間遠方で代数的な減衰をする定常解が存在し,この代数ソリトンに関しては線形化作用素のスペクトル解析に基づいた従来の手法が破綻するため,安定性/不安定性が全く分かっていなかった.本研究では基底状態解の変分的性質を応用することで代数ソリトンの不安定性(多次元の場合も含む)を証明し,さらにこの手法を周波数が正の場合の定在波に対して適用することで先行結果を大幅に改善することができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画通り,微分型相互作用をもつNLSの変分構造を整理することができ,質量条件を変分的観点から明確に表現することができた.このことは可積分な方程式にも質量臨界NLSや臨界一般化KdVに類似する質量臨界構造が現れることを数学的に表現したものであり,今後の微分型NLSの研究において重要な指針になることが期待される. 二重冪NLSにおける代数ソリトンの研究は微分型NLSとの関連で始めたものであったが,多次元のときを含めて不安定性の結果を出すことができたのは当初の計画以上であった.不安定性を導く新しい十分条件は代数ソリトンの言葉で表現できるものであり,二重冪NLSの数学的構造を新たに解明できた点は意義深い.
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究で得られた微分型NLSおよび付加項付きの方程式における質量条件の変分的な特徴付けは,質量条件の閾値を境に方程式のダイナミクスが変化することを示唆している.しかし実際そうなっているかはまだ分かっておらず,微分型NLSの時間大域的ダイナミクスは他の臨界方程式と比べると未解明な部分が多い.今後の重要な課題の一つは質量条件を与えるソリトン周りのダイナミクスを解明することである.これは微分型NLSでは4πの質量をもつ代数ソリトン周りのダイナミクスを解明することに対応する. 二重冪NLSに関しては今回得られた条件が最適かどうかという問題が残っている.1次元のときはこの問題に関する研究が既に進められているが,多次元の場合はまだよく分かっていない状態である.またこの問題に関連して代数ソリトンの安定性に関しても分かっていないことが多い.そこで今後の研究ではこれらの問題に取り組み,解決の糸口を掴みたい.
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