反応や状態遷移イベントは周囲環境の不均一性を反映して時系列に沿った相関(動的相関)を示す. 本研究では動的相関の微視的起源を解明するための解析手法の確立を目指し、水中のBPTIタンパク質に関する1ミリ秒の超長時間MDの時系列データを対象とした研究を行った. BPTIには内部水が存在して水素結合によってタンパク質の構造安定化に寄与している. 内部水がバルク水分子と交換する過程(内部水交換)がNMR緩和分散実験およびMD計算で調べられてきた. 特にMD計算に基づいて内部水の交換時間の1次元分布関数が解析され、複数の時間スケールおよびそれらの間の動的相関の存在が示唆された. しかし、詳細はわかっていない. そこで、内部水の交換時間の2次元分布関数に基づく一連の解析によって動的相関を微視的に解明するための研究を行った. NMR実験とMD計算で平均交換時間に良好な一致がみられる内部水(W112)を対象とした. まず、交換時間の自己相関関数の解析から相関緩和の時定数が求められ、BPTIのCys14-Cys38ジスルフィド結合周囲の二面角ダイナミクスの時定数との対応から両者の関連性が示唆された. 交換時間の2次元分布関数の解析によって1マイクロ秒スケールと10ナノ秒スケールの交換時間成分の間の遷移が相関緩和の要因であるとわかり、2次元分布関数の相関項における寄与の解析から、この遷移はCys14-Cys38ジスルフィド結合に関する2つの構造状態、Majorとminor、の間の変化と関連することがわかった. また、Major構造-minor構造間の遷移に伴って内部水(W112)と水素結合しているBPTI中の2つのループ構造L1およびL2の間の距離が変化しており、これによる内部水(W112)の安定化・不安定化と交換時間の相関との関わりが示唆された.
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