研究課題
海馬にはCA2野という異質な亜領域がある。CA2野の独自性は近年注目を集めるようになったが、他の領域と比べてあまり研究されてこなかった背景がある。本研究では、研究代表者自身が発見したCA2野の再起回路構造に着目している。この回路構造は海馬では珍しく、従来CA3野にしか存在しないと考えられてきた。現状、再帰回路と機能の因果性を直接示した研究はないものの、CA3野が担う学習や記憶に関連した機能を持つものとされている。これはCA2野にも当てはまるのかは定かではない。そこで、新たに発見したCA2野の再起回路がCA3野と類似した機能を持つのか、あるいは独自の機能を持つのかを解明することを目的とする。CA2野は小さな領域であるため、実験的なアプローチが難しい。また、再起回路というシナプス結合の検出・操作にも電気生理学的、形態学的な手法を要する。そこで本年度は、単シナプス評価のための同時パッチクランプ記録装置の立ち上げを行った。これにより、所属研究室における共焦点顕微鏡設備と組み合わせて、電気生理測定と形態解析を同時に行える環境を整えた。さらに、海馬CA2野を優先して標識するツールを発見した。これは従来のCre/loxPシステムと遺伝子組み換えマウスを用いた手法とは異なるアプローチであり、野生型マウスに対してCA2特異的な操作を可能とするものである。また、マウスのみならずラットにも応用できる見込みがある。このツールを用いて、今後はCA2野の局所回路操作を行っていく予定である。
2: おおむね順調に進展している
所属研究室に電気生理機器が整備されていなかったため、その設置に時間を要した。しかし、当初の予定になかった発見があり、その手技を次年度から応用することで、進展する見込みがある。
光刺激によって再帰シナプス回路の増強可能であることをin vitroで示す。ChR2を発現させたマウスから海馬スライスを作成し、in vitro条件下の光刺激で同期的に活動した細胞間にシナプス増強がなされるかを確認する。ChR2発現細胞に同時パッチクランプ記録をし、結合のあったペアに対して光刺激を処置することで、光刺激前後のシナプス強度変化を確認する。その後、このプロトコルを基準として生体マウスで光刺激を行う。次に、ChR2を発現させたマウスの脳に光ファイバーを埋め込み、レーザーによる光刺激を処置する。この処置が可能になれば、シナプス増強の持続するタイミング(おそらく30分~1時間後)に海馬スイスを作成し、CA2神経細胞から同時パッチクランプ記録を行う。ChR2発現細胞ペアと非発現細胞ペアでのシナプス強度、および存在確率を比較する。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)
Cell Reports
巻: 27 ページ: 2817~2825.e5
10.1016/j.celrep.2019.05.015