生体肝移植でも知られるように、肝臓は再生する臓器であるが、この再生は実質細胞である肝細胞が頻繁に増殖することで担われる。一方で、肝硬変に代表される慢性肝障害は、肝組織内にコラーゲン線維が蓄積する線維化を引き起こし、それに伴って肝細胞の増殖能の低下により再生能を含めた肝機能不全に陥ることが臨床上の大きな問題となっている。そこで本研究課題では、慢性肝障害によって増生した胆管細胞が肝細胞へと分化転換し肝再生に寄与するのかについて検討した。CK19-CreER/R26-LSL-tdTomatoマウスへタモキシフェンを腹腔投与することで胆管細胞をtdTomatoによって蛍光ラベルした後、チオアセトアミド(TAA)を飲水投与することで慢性肝障害を誘発した。TAA投与から8週後および24週後の肝臓を観察したところ、胆管細胞から肝細胞への分化転換率は極めて低かった。次に、TAAを8週間投与した後、通常の飲水投与に切り替えることで、肝障害によって増生した胆管細胞がどのような挙動を示すかを検討した。その結果、肝組織修復過程においても肝細胞への分化転換はごく一部(全肝細胞中の0.2%未満)でしか起こっておらず、肝再生への寄与は限定的であることが示された。また、増生した胆管細胞は組織修復過程において長期(~24週間)に肝組織内に残存しており、胆管細胞の周辺にはコラーゲン線維が集積していることが観察された。そこで、胆管細胞の分化・維持に作用するNotchシグナルの阻害剤DAPTを組織修復過程で投与したところ、増生した胆管細胞が顕著に減少するとともに、肝線維化の改善が認められた。これらのことから、慢性肝障害によって引き起こされる増生した胆管細胞を選択的に除去することで、障害からの組織修復過程における正常化を促進することが示唆された。
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