本研究の目的は、小学生高学年の子どもの自殺リスク要因を悉皆調査データを用いて縦断的に検討することである。東京都足立区「子どもの健康・生活実態調査」の質問紙データを用いて、小学校4年生および6年生時点の①希死念慮を主要アウトカム、②自己肯定感、③幸福度、④コーピング、⑤抑うつ傾向を副次アウトカムとして、子どもの自殺リスクに影響を与える家庭、学校、地域の要因を明らかにする。 最終年度である本年度は、小学校4年生時点の追跡調査データを用いて3つの縦断研究について論文執筆および発表を進めた。1つめは、小学校1年生から4年生の間で虐待の頻度が増えることが子どものレジリエンスの減少および問題行動の増加につながるということを、固定効果モデルを用いて明らかにした研究である。こちらはAmerican Journal of Epidemiologyにおいて出版された。2つめは、虐待を小学校1年生・4年生時両方で受けていても、学校でのソーシャル・キャピタルやロールモデルとなる大人の存在が子どものレジリエンスを高め、保護因子となることを示した研究である。こちらは現在、国際学会誌においてリバイス中である。また、虐待を含む親子の関わりが縦断的に子どもの自己肯定感および幸福度に関連していることを構造方程式モデリングを用いて示した研究については、引き続き、英語論文を執筆した。 さらに、子どものウェルビーイングに影響を与える環境がコロナ禍において変化したのかを検討するため、コロナ禍を体験していないコホート(2016年時点で小学4年生)と体験したコホート(2018年時点で小学4年生)において、小学4年生から6年生になるまでの2年間で虐待がどのように変化したか差の差分析を用いて比較を行った。その結果、コロナ禍において虐待、とくにネグレクトが減少したことが示された。本結果についても、解析結果をまとめ論文執筆を進めた。
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