本年度の主要な研究実績は、次の2点にまとめられる。(1)13-15世紀のカラーム(哲学的神学)におけるコスモロジーとオカルト諸学の関係についての調査:タフターザーニー(1389/90年没)の主著『神学の目的注釈』から、引きつづき、天界の秩序、驚異、タリスマンの徒の学説をめぐる諸議論を分析した。そしてその結果を歴史的に位置づけるべく、イスラム圏における天文学史・占星術史にかんする研究サーヴェイを網羅的に行った。これにより、彼の議論はマラーガ学派(13世紀)の数理天文学・哲学的神学周辺で発展した、永遠の秩序体系としての宇宙とその秩序の創始者としての神という信念を、論駁する目的で提出されていることを確認できた。さらにその際、彼がラーズィー(1210年没)の占星魔術的神学体系を(適宜改変しながら)大幅に受容している事実も明らかになった。以上の成果はドイツ出張時の口頭発表(ドイツ語)で報告し、また部分的にはエッセイ・レヴューという形で出版した。現在はそれらを1つの英語論文としてまとめる作業の最終段階にある。(2)13-15世紀の存在一性論系神学におけるコスモロジーとオカルト諸学の関係についての調査:前年度からの作業を継続し、13世紀半ばから15世紀初頭にかけて同派内部で起こったとみられるオカルト諸学の周縁化と再活性化について検討を進めた。結果として、全体的にはやはりそうした傾向があったと判断し、暫定的なアウトラインを国際学会とドイツ出張時の口頭発表(いずれも英語)で報告することができた。現在は細部の検証をつづけつつ、成果の一部を英語論文の形にまとめる作業を行っている。
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