研究実績の概要 |
宇宙初期(すなわち遠方)にある銀河の性質を理解することは、銀河進化を明らかにする上で重要なばかりでなく、そ宇宙再電離現象を理解する上でも重要である。本年度は巨大電波干渉計 ALMA (アルマ望遠鏡) を用いて遠方星形成銀河およびクェーサー(中心に超巨大ブラックホールを宿す天体)の星間媒質の研究を行った (Hashimoto et al. 2019a, b)。特に観測ターゲットとした輝線は、二階電離した酸素の輝線と一階電離した炭素の輝線、そして星間塵 (ケイ酸塩などの個体微粒子)による熱的な再放射である。
今年度は星形成銀河1天体、クェーサー2天体で両輝線と星間塵による連続光放射を全て検出した。酸素と炭素の輝線光度比は0.5-3 であった。光度比を解釈するため、同時代にあった天体の全輻射光度と光度比の相関を調べたところ、全輻射光度の小さい天体ほど酸素-炭素輝線光度比が大きくなることを示した。この傾向は、(i) 遠方宇宙に普遍的に存在する矮小銀河 (全輻射光度が小さい) では酸素の二階電離輝線が分光観測の強力なツールであることを意味し、(ii) その物理的な背景は赤方偏移 6 で既に質量-金属量関係や電離状態の違いが現れていたことを示唆している。このように、遠方銀河の星間媒質の統計的な研究を拓いた点で非常に意義の高い成果であった。
また、上述の光度比が宇宙再電離現象を理解する上で重要なパラメータの一つである電離紫外光光子の脱出率に関わる可能性を指摘し、成層圏天文台 SOFIA へ関連した観測提案を提案し採択された。そして、さらなる遠方銀河の観測へ向けてチリにある巨大望遠鏡 VLT や ALMA へ複数の観測提案を提案し採択された。現在はデータ解析を進めている状況である。
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