研究課題/領域番号 |
19J01643
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
日比野 有岐 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 特別研究員(SPD)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | スピントロニクス / 電流-スピン流変換 / スピン軌道トルク |
研究実績の概要 |
面内方向の電流印加によるスピン軌道トルクは新たな磁化制御技術であり、次世代の磁気メモリの書き込み手法への展開が期待されている。スピン軌道トルクの物理的背景は面内方向電流によって面直方向のスピン流が生成される電流-スピン流変換現象であり、非磁性材料におけるスピンホール効果を中心として現在も盛んに研究されてきた。近年、非磁性材料に代わり強磁性材料が電流-スピン流変換現象の舞台として注目を集めている。強磁性材料では、自身が磁化による付加的な対称性の破れを有していることから、非磁性材料では不可能であったスピン流生成が可能となる。この新奇な電流-スピン流変換によるスピン軌道トルクを用いることで無磁場下での垂直磁化反転等の磁化ダイナミクスも期待され、本課題の目標となっている。 本年度では膜面直方向に磁化した強磁性材料(垂直磁化材料)に着目し、新奇スピン軌道トルクの観測およびその定量評価方法の確立を軸に実験系の設備を整えた。その結果、垂直磁化材料における電流-スピン流変換機構を強磁性共鳴を用いた高感度な定量評価手法の確立に成功した。また、それにより強磁性材料の電流-スピン流変換に関する機構解明の知見が得られる等の成果を挙げることができた。磁化反転のような磁化ダイナミクスを誘起するためには、高効率にトルクを生成する材料系を探索する必要があり、本年度の評価方法の確立は今後の材料探索や機構解明にて重要である。 また、本課題申請時にて取り組んだPy/Pt/Coの三層構造におけるスピン軌道トルクに関する研究の論文発表を行った。本結果はPt/Co界面に由来した新奇スピン軌道トルクを初めて観測した結果であり、スピン軌道トルクの更なる機構解明・デバイスの構造設計に新たな指針をもたらした点で大変意義深い結果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、強磁性材料に着目し付加的な対称性の破れを用いた新たなスピン軌道トルクの機構解明とそれを用いた垂直磁化反転の実証が目的となっている。研究初年度にあたる本年度では、強磁性材料における電流-スピン流変換現象の機構解明に関する研究を中心に取り組んだ。特に、垂直磁化材料における電流-スピン流変換現象に着目し、巨大磁気抵抗効果と強磁性共鳴法を組み合わせた高感度な定量評価方法を確立した。この手法を用いることで、高い電流-スピン流変換効率を有する垂直磁化材料の探索や機構解明に向けた系統的調査が可能になり、多くの知見を得ることになった。以上から、本研究の進捗区分をこのように判断した。また、今回用いた素子構造は巨大磁気抵抗効果を用いたことにより、高出力動作を可能とするスピン軌道トルクを発振器への応用が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
ここまで強磁性共鳴法を用いることで垂直磁化材料を起源として生じるスピン軌道トルクの高感度な測定手法を確立し、その機構解明につながる知見を得ることができた。これを踏まえ、本年度ではこの手法を用いて高いトルク生成効率を有する強磁性材料の探索・構造最適化を引き続き行う。また、今後は本課題の目的である垂直磁化反転を行う上で面内磁化材料におけるスピン軌道トルクの測定手法の確立を目指す。面内磁化材料/非磁性スペーサー材料/面直磁化層の三層構造を作製し、面内磁化材料の磁化方向を固定しつつ面直磁化層の磁気共鳴を誘起する。垂直磁化層の磁気共鳴を介して、面内磁化材料からの電流-スピン流変換の系統的な調査を行う予定である。また本年度にて得られた知見を元に高出力な磁化発振器実現に向けたデバイス開発を検討する。
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