研究課題/領域番号 |
19J01649
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
飯谷 健太 早稲田大学, 理工学術院, 特別研究員(PD)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
|
キーワード | 生体ガス / バイオセンサ / マイクロファイバー / 三次元分布解析 / 高分子 / 酵素複合化繊維 / エレクトロスピニング / 蛍光イメージング |
研究実績の概要 |
呼気・皮膚ガスなどの生体ガスに含まれるVOCs濃度および組成には、疾患・代謝状態に関連する血中成分が反映される。生体ガスは簡便かつ非侵襲に採取できるため、生体由来VOCs濃度の時間変化計測による疾患スクリーニングや代謝モニタリングが可能である。同時に、放出部位・放出動態といった空間情報も代謝・皮膚状態に依存すると考えられる。例えばVOCs分布にて疾患部位を特定できる可能性がある。しかし、既存の計測手法では生体ガスをサンプルバックに採取し、ガスクロマトグラフ質量分析装置などの分析装置で計測する必要があり、“対象となる部位全体から一定時間に放出された皮膚ガス総量”をもとに評価するため、時・空間情報の同時評価は困難である。本研究では、電界紡糸法を応用し、酵素含有繊維で構成されるガス透過性の高い蛍光式ガスセンシングメッシュを創製し、生体ガス中複数VOCs成分の三次元同時可視化を実現する。最終的に非侵襲な疾患スクリーニングや代謝モニタリングへと展開することを目的としている。 2019年度、酵素を含む各種高分子溶液の電界紡糸後の酵素活性評価を実施し、併せて電界紡糸による二次元(2D)酵素メッシュの作製および、標準ガス発生系、2D電界紡糸メッシュを用いた蛍光によるエタノールガスの可視化系の構築を実施した。電界紡糸に用いる各種高分子溶液の検討の結果、水を溶媒とする高分子を用いた場合で酵素活性を維持できることが示された。また、高分子X(知財関係上、伏字)を主成分とする高分子溶液を用いた場合では自家蛍光を低減することが可能で、電界紡糸された酵素メッシュが乾燥した状態でも酵素反応が生じることを観察した。更にこれをエタノールガス可視化に用いた結果、0.5 ppm ほどの低濃度でも検出することが可能であった。酵素反応条件の最適化などを進めることで更なる高感度化も可能であると考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度では、本研究のコア技術となる電界紡糸法を応用した酵素含有繊維の開発を目標とした。この酵素含有繊維は、蛍光に基づくバイオセンシングで用いることを前提としているため、①電界紡糸によって酵素変性を引き起こさず、バイオセンシングに利用可能な酵素活性を維持できること、②波長340 nmの紫外光を励起光として繊維に照射した際に生じる波長400 nm以上の蛍光強度が低いこと(低自家蛍光)、③正確なガスの分布を測定するために、高いガス透過性を有すること、という3点の要求仕様が存在する。アルコール脱水素酵素(ADH)を基礎検討用のモデル酵素として用い、各種の高分子材料について検討を重ねた結果として、水に可溶な高分子 X(知財関係上、伏字)を用いた場合では、「①電界紡糸後に酵素活性が維持できる」こと、「②先行研究で用いられる繊維状の酵素固定化基材と比較して低自家蛍光である」ことが示された。また、要求仕様③であるガス透過性については、新規に標準ガス発生系および、蛍光イメージング系を構築して評価を行った。開発した酵素含有繊維にて構成されるエタノールイメージング用メッシュに標準エタノールガスを負荷した結果、ガス負荷点のみに蛍光が生じることが観察され、「③高いガス透過性に基づく、高い空間分解能を有する」ことが示された。本研究では当初、イメージング用メッシュを湿潤させた状態で利用することを想定したが、電界紡糸した酵素メッシュが特異的に示した「乾燥状態でも酵素活性を保持する」という性質が高いガス透過性の発現に貢献していると考察している。以上のように要求仕様を満たしつつ、当初に目標とした電界紡糸法を応用した酵素含有繊維の開発を進めることができているため、概ね順調に進展しているとの評価とした。
|
今後の研究の推進方策 |
2019年度は、生体ガス中VOCsの三次元濃度分布を評価するための「三次元酵素マトリクス」の構成要素である「酵素・補酵素含有繊維」の電界紡糸法による作製に取り組んだ。2020年度は、これまでに開発した電界紡糸法を応用した酵素含有繊維作製技術に基づく技術開発を進める。例えば、高分子Xにて作製した酵素含有繊維は4℃にて酵素活性を少なくとも2週間維持できることを示唆する実験結果が得られている。本研究で用いるアルコール脱水素酵素(ADH)は凍結乾燥され-20℃環境で保存する必要があり、常温下では数十分から数時間のオーダーで失活が進む。この酵素活性の保護機能は高分子Xの分子構造によると考えられる。これを深め、材料学的にこの機能が発現される原理を解明したいと考えている。電界紡糸法による酵素含有繊維作製技術はアルコール脱水素酵素のみならず、他の酵素へも適用可能であると考えられる。これを利用し、エタノール以外のガス種への計測対象の拡大が必要であると考える。 さらに、開発した酵素含有繊維の電界紡糸を用いて三次元酵素マトリクスの作製にも着手する。電界紡糸法では繊維を射出するスピナレットと、繊維が付着するコレクター電極間の電場設計により様々な形態の繊維集合体の構築が可能である。電場シミュレーションやコレクター電極のプロトタイピングにより酵素含有繊維が充填された三次元構造体を作製し、生体由来VOCsの三次元イメージングを目指す。 なお、2020年1月から米国・University of Maryland, Baltimore Countyに在するCenter for Advanced Sensor Technologyにて経皮バイオセンシングに関する研究を進めている。2020年度も継続して米国に滞在し、先端的バイオセンシング技術を習得すると共に、2019年度に得られた実験結果の論文化を進める。
|