研究課題/領域番号 |
19J01659
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
榎本 孝文 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 人工光合成 / 高分子ミセル / 光水素発生 |
研究実績の概要 |
本研究では,効率的な光誘起電子移動反応を達成するために,高分子ミセルのシェル上に分子性触媒および色素分子を集積化させた新奇な光反応場の開発を進めている.水中において,両親媒性のブロックコポリマーは自己集積し,コアシェル型のミセルを形成する.高分子ミセルの柔軟なシェル構造に分子性触媒と色素を集積化させ,これらの成分の局在濃度を増加させることで,効率的な電子移動反応が達成できるのではないかと予想した.具体的には,重合誘起自己組織化(PISA)を利用することでシェル部分に触媒担持サイトを有する高分子ミセルを調製し,ここに色素であるルテニウム錯体と水素発生触媒であるコバロキシム錯体を後修飾によって導入することで,光水素発生微粒子を作製できると考えた. 令和2年度には「高分子ミセルを利用した光水素発生反応場の開発と機能解析」という研究テーマに取り組んだ.本テーマでは,平成31年度に新たに設計した,ルテニウム色素および水素発生触媒であるコバロキシム錯体が担持された光機能性高分子ミセルにおいて,ルテニウム色素とコバロキシム錯体の比率を変化させた一連のシリーズを新たに合成し,それらの光触媒活性の系統的な評価を行った.この結果,光機能性高分子ミセル上ではルテニウム色素とコバロキシム錯体が非常に近接した位置に配置されており,均一系に比べて数万倍の濃縮効果が発現していることが明らかとなった.また,光機能性高分子ミセルに導入するルテニウム色素とコバロキシム錯体の比率には最適値があり,これは高分子ミセルの構造的特徴に由来するものであることが示唆された.更に,光水素発生反応の条件を詳細に検討することで,平成31年度の報告の時点から触媒活性を千倍程度向上することにも成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和2年度の研究によって,平成31年度に新たに設計した光機能性高分子ミセルの構造ー物性相関についいて詳細に検討を行い,本システムが高分子ミセルの構造的特徴に由来した特異的な光水素発生挙動を示すことを明らかにすることができた.また,反応条件の詳細な検討により,平成31年度の報告の時点から触媒活性を千倍程度向上することにも成功した.しかしながら,サンプル調整法の最適化や,物性調査のための測定手法の開拓,および水素発生反応の条件最適化に当初の予想以上の時間を費やす必要があり,研究計画の第2段階として予定していた光酸素発生反応系の開発には遅れが生じている.以上の理由から,進捗状況は当初の計画からやや遅れていると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度の研究では,まず,これまでの研究によって機能が実証されたコア架橋型光水素発生ポリマーミセルの構造-物性相関に関して詳細に検討を行う.これまでの検討によって,光水素発生ポリマーミセル上に担持する色素と触媒の比率には最適値があり,これはポリマーミセルの構造的特徴に由来していることが示唆されるデータが得られている.これらの事象に関して,TEM測定やSAXS測定を用いることでより詳細な構造情報を取得する.これらのデータと触媒機能に関する情報を統合することで,光反応場としてのポリマーミセルの基本原理を明らかにする.これらの成果をまとめ,学術論文として発表する. これらの研究で得られた知見を活かし,光照射に伴って水を分解し酸素を発生する,光酸素発生機能を有するポリマーミセルの開発も行う.色素分子を修飾したポリマーミセルに対して,高い酸素発生能が報告されているルテニウム錯体(S. Licheng et al.)を後修飾することで,光機能性ポリマーミセルの合成を行う.実際に合成したコア架橋型光酸素発生ポリマーミセルに対して,犠牲酸化剤の存在下で可視光の照射を行い,光照射に伴う酸素の発生量を測定する.反応条件の詳細な検討を行い,高効率な光酸素発生を達成するコア架橋型ポリマーミセル系を確立する. 最後に,今までの検討で得られた光水素発生ミセルと光酸素発生ミセルとを共存させた条件で光照射を行い,水の完全分解が進行するか検討する.このとき,スムーズな電子移動を達成するために,電子メディエーターなどの添加も検討する.また,より効率的な光反応の達成のために,光機能性ミセルを連結させることで光機能性ゲルを構築し,これを用いた光触媒反応の検討を行う.
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