令和3年度は,これまでに作製した光機能性ミセルを化学的に接続し,集積化させるための「電子伝達高分子」に関する検討を行った.具体的には,poly(N-isopropylacrylamide) (PNIPAAm)を主骨格とする高分子に,可逆的な酸化還元特性を有するビオロゲン部位を導入することで電子伝達能を有する高分子を合成し,その酸化還元特性の評価を行った.光水素発生反応においては,ビオロゲン誘導体が良い電子メディエーターとしてはたらくことが知られており,ビオロゲン骨格を有する高分子は,光水素発生ミセルを集積化させるために適切な電子伝達高分子であると考えられる. まず,NIPAAmとビニル基を有するビオロゲン誘導体を,精密ラジカル重合の一種である原子移動ラジカル重合で直接共重合する方法を試みたところ,ビオロゲン誘導体の還元によって重合が阻害されてしまい,高分子が得られないことが明らかになった.そこで,あらかじめ NIPAAmと1級アミノ基を有するモノマーである3-(N-aminopropyl)methacrylamide (NAPMAm) の共重合体を合成し,そこにカルボキシル基を有するビオロゲン誘導体を後修飾することで,目的とする骨格を有する高分子を得ることに成功した.得られた高分子の水溶液に対して化学還元剤を添加すると,ビオロゲン誘導体の還元体が生成することが確認された.更に,この高分子を色素および犠牲還元剤と共存させることで,可視光照射に伴うビオロゲン含有高分子への電子注入を確認した.これらの結果は,この高分子が電子メディエーターとしての機能を有していることを示唆するものである.以上,令和3年度の研究によって,光機能性高分子ミセルを集積化させるために重要な要素である「電子伝達高分子」の合成手法の確立と機能評価が達成された.
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