2020年度はCOVID-19流行のため沖縄県での調査がほとんどできず、主に前年度までに収集した資料をもとに、米軍政下の沖縄での寄生虫症の流行と対策、及び、沖縄・日本・USCARの各関係者の活動などを分析した。 (1)沖縄では回虫よりも鉤虫が流行していた点が日本本土との大きな違いであった。鉤虫症対策として、三槽式便所普及用のパンフレット作成、保健所・沖縄県公害衛生研究所・沖縄寄生虫予防協会などによる検便、啓発活動などが行われた。例えば、1965年に始まった「寄生虫ゼロ作戦」では、新聞・ラジオ・テレビなどの活用、映写会などの開催、地区や小学校の役員などを巻き込んだ地域を挙げた対策を進めた。製糖期は人々が多忙で検査などに応じてもらうことが困難であった。公衆衛生看護婦が対策に従事した点も特徴である。 (2)日本本土からは東京大学伝染病研究所、長崎大学風土病研究所、鹿児島大学医学部などの研究機関が沖縄県で調査をした。日本本土からの調査者が、沖縄の人々が話す言葉や地名が十分に理解できずに困惑する様子もしばしば記録に残されている。鉤虫対策を重視する理由に挙げられた経済的損失は、横浜市立大学の研究成果や日本寄生虫予防会の国井長次郎が沖縄で行った報告を根拠としていた。USCARとの関係では、沖縄寄生虫予防協会が協力して日本語と英語による住民向けパンフレット(鉤虫を重視)を作成していた。 主な研究成果として、(i)Tropical Medicine and Healthに共著論文を発表した。報告者は、日本寄生虫予防会の設立過程や地域社会を巻き込んだ活動を論じた。(ii)COVID-19対策が突き付けるような公衆衛生倫理に関わる課題に対して、歴史学の知見を提示する試みとして、報告者は過去の感染症対策における地域の人々の様子や地域社会の論理を分析して、第39回日本医学哲学・倫理学会大会で報告した。
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