研究課題/領域番号 |
19J01749
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中倉 満帆 東京大学, 生産技術研究所, 特別研究員(PD) (20849369)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 集熱器 / ソーラーレシーバ / 集光型太陽熱 / 多孔質モデリング / 最適化 / ふく射熱輸送 / 対流熱伝達 / 熱伝導 |
研究実績の概要 |
本研究では、集光照射を受けて光熱変換を行う集熱器に対して、単純なハニカム構造を想定し、その流路幅が光熱変換にどのような影響があるかを熱流体の直接数値シミュレーションとモデル化したふく射輸送解析を連成した複合熱伝達解析によって調査した。解析範囲は、ハニカム集熱器の1流路と入口・出口の空気領域である。流路壁は、太陽光の集光照射を想定した上部からのふく射加熱によって熱せられる。同時に流路内部を熱媒となる空気を通すことで集熱を行う。この入射ふく射熱量に対する空気集熱量の割合が光熱変換(レシーバ)効率とする。計算条件として入射ふく射熱量と空気質量流量の比であるPOMを固定し。空気の質量流束を変化させた。本研究では、異なる6ケースの流路径をテストした。流路径が大きくなるにつれてレシーバ効率が減少するという結果が得られた。また、同様の条件で、エネルギー収支から熱放射と反射、透過による損失を算出した。それぞれ流路径は異なるが流路としての形状は変わらないため、反射して上面から抜ける損失と流路下面へ透過していく損失はほぼ同じ値を示した。また、これらの値は流路形状によるため、質量流束の変化に影響を受けない。一方で、加熱された壁面からの熱放射による損失は流路サイズと質量流束の影響を受ける。流路径を小さくすることで熱放射損失の抑制が可能となる。これが前述のレシーバ効率が上昇する要因であることを明らかにした。上記の結果より、高効率なレシーバの稼働には各種パラメータの最適化が必要となってくる。最終的な多孔質集熱器のミクロ・マクロ形状最適化を想定し、今年度は、単純な形状である平行平板間流れに対して伝熱促進と摩擦低減を目的とした最適制御理論に基づく最適化を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、集光型太陽熱利用技術と固体酸化物型電解セルSOECの組み合わせによる工場排出炭酸ガスの再資源化システムを想定し、その主要素である多孔質集熱器の開発を行う。多孔質構造をもつ集熱器に集光太陽光を照射すると同時に熱媒である気体を流すことで集熱を行う。得られた熱は、発電と高温水蒸気生成に使用される。太陽熱を利用して得られた高温水蒸気と電気を利用し、工場排出炭酸ガスをSOECによって共電解することでクリーンな合成ガスを生成可能とする。 これまでのハニカム構造を持つ集熱器に関する研究より、集熱器における光熱変換効率は集光加熱を受ける表面形状を変更することで改善出来ることを報告している。本研究では、初めにパラメトリックにハニカム流路径を変更することで、レシーバ効率に与える影響を調査した。まずは、ハニカム集熱器の1流路で起こるふく射-対流-熱伝導現象について、本研究で開発した連成数値シミュレーションを利用し、集熱器で起こる熱輸送のエネルギー収支を算出した。この詳細な熱流体的解析についてはエルゼビア社の学術誌International Journal of Heat and Mass Transferに掲載された。また、同手法を利用し、レシーバ流路径が小さいほどレシーバ効率が上昇することを明らかにし、学術誌Renewable Energyに掲載された。 最適化に関しては、第一段階として単純な形状である平行平板間流れに対して伝熱促進と摩擦低減を目的とした最適制御理論による最適化を行った。流体内部での一様発熱を仮定し、壁面を一定温度に保つことで流体と壁面間での熱輸送があるものとし、制御入力として壁面からの吹出しと吸込みを与えた。結果として、文献に報告されている特徴的な現象を再現することができ、今後の集熱器の形状最適化への基盤を構築した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、(1)直接埋め込み法によるふく射-対流-熱伝導連成数値シミュレーションの確立、(2)(1)のプログラムへの随伴解析による形状最適化の組み込み、(3)多孔質流路の構造データの取得と実験準備を目標として進める。 (1)では、最終的なふく射熱輸送を伴う多孔質構造での形状またはトポロジ最適化法の開発を念頭に、直接埋め込み法による熱流体解析プログラムの構築を行う。初めに、単純形状の流れ(矩形流路流れ等)について解析を行い、理論解やリファレンスとの比較によって手法の検証を行う。また、ふく射熱輸送の直接埋め込み法による解析手法を検討し、これを上述の熱流体解析プログラムへと組み込む。コードの試作段階はローカルのワークステーションによって開発を進め、大規模計算リソースが必要になった段階で東京大学等の大型計算機を利用する。 (2)では、上記で開発した熱流体数値シミュレーションコードに随伴解析に基づく最適化アルゴリズムを導入する。まず、ふく射熱輸送を含まない矩形流路流れに最適化アルゴリズムを組み込み、伝熱性能向上と圧力損失低下を目的とした制御入力最適化を行う。先行研究との解析結果の比較を行うことで評価を進める。徐々に、ふく射熱輸送や複雑形状へと拡張していく。 (3)では、今後行う多孔質モデリングに向けて、実機の多孔質集熱器で使用を想定した多孔質体を入手し、その3次元構造データを取得する。そのデータより、上記で開発した数値解析コード上での多孔質モデリングを行う。また、これまでの研究より明らかとした集熱器構造、または最適化によって算出された集熱器構造を3Dプリンタで出力して実験の準備を進める。 一連の研究で得られた成果について、学術誌へと投稿し、また熱流体関連学会に参加し情報交換を行う。
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