研究実績の概要 |
【研究の目的】ある種の神経変性疾患においては、脳内に複数の金属の蓄積が認められることが報告されており、脳内の金属代謝を維持することは非常に重要である。一方で、脳内における金属の代謝や動態の制御に関わる分子や機序の詳細は不明である。本研究では、脳内金属代謝機構およびその破綻機構を解明するために、脳内への金属蓄積が指摘される老齢マウスにおいて発現が変動する輸送体を網羅的に解析し、その機能を評価することを目的とした。 【結果の概要】10,20,40,80週齢のマウスにおいて、新規物体認識試験を行った結果、60および80週齢のマウスにおいて認知機能の低下を認めた。また、各マウスから大脳皮質および海馬を摘出し、誘導結合プラズマ質量分析法にて、組織内金属(Fe,Cu,Mn,Zn)の差異を比較解析した結果、60週齢以降のマウスの大脳皮質および海馬において、上記金属量の上昇が認められた。次に、老化に伴う脳内の金属代謝破綻機構を明らかとするため、脳での金属代謝に関わることが報告されている輸送体の発現についてRT-PCRおよびreal time PCRを用いて網羅的解析を行った。発現に差異があった輸送体についてウエスタンブロット法により詳細な解析を行ったところ、Fe,Cu,Znの取り込みに関わるZIP14の発現が老齢マウスの脳において上昇していることを認めた。この結果は脳内への金属の蓄積量と相関しており、さらに、認機能の低下以前に認められることから、ZIP14は老化における脳内金属代謝の破綻および認知機能の低下に大きく寄与する可能性が予想された。今後は、免疫染色法を用いた組織学的な解析などから、金属の集積部位とZIP14の発現部位の差異について詳細な解析を行うと共に、ZIP14の発現上昇と金属蓄積の相関性についてより詳細に理解したいと考えている
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度の研究により、誘導結合プラズマ質量分析法を用いた解析から、老齢マウスの脳においてFe,Mn,Z,Cu等の蓄積がしていることを確認し、更に、この金属代謝破綻機構に関する輸送体の候補を明らかにした。本年度は、これら輸送体についてより詳細な解析を行い、老齢マウスにおいて金属の取り込みに関わる輸送体ZIP14の発現が増大することを見出した。更に、ZIP14の発現上昇は金属蓄積量と相関しており、認知機能の低下以前に認められることから、ZIP14が老化における脳内金属代謝の破綻および認知機能の低下に大きく寄与する可能性を見出した。一方で、ZIP14が脳内金属代謝破綻や認知機能低下にどの様に関与するかについての理解は、今後の課題としている。したがって。本年度は総合的に見て、脳内の金属代謝破綻に関わる輸送体の候補を得られたものの、詳細な機能については明らかとできなかったため、期待ほどの進展は得られなかったと判断している。一方で、今年度の研究から、老齢マウスにおいては脳以外の組織においても組織中金属量に差異があることが明らかになった。そのため、次年度の研究計画として、個体全体での金属代謝の変化とそのメカズムについても解析することを計画しており、これらの研究成果によって、老化に伴う金属代謝破綻機構の一端を解明することができると考えている。
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