【研究目的】微量金属元素は、生体において必須の役割を果たす一方、過剰量では様々な障害を引き起こす。特に、中枢疾患を発症しているヒトの脳内において、数種類の生体金属の蓄積が認められることが報告されており、脳内の金属代謝を制御することは非常に重要である。一方で、老化による認知機能の低下過程と、脳内金属代謝の破綻過程の関連性の詳細は明らかとなっていない。本研究では、老化による認知機能低下過程と、脳内金属代謝の変化の関連性について解析を行った。 【研究方法】12週齢および72週齢のマウスにおいて、認知機能と脳内金属元素濃度を比較解析した。更に、亜鉛欠乏によって認知機能が低下することが報告されていることに着目し、各マウスに亜鉛欠乏食を1カ月間自由摂食させ飼育し、認知機能と脳内金属代謝制御への影響を解析した。 【研究結果】新規物体認識試験を行った結果、72週齢の老齢マウスにおいて認知機能の低下が認められた。また、12週齢のマウスにおいて亜鉛欠乏によって認知機能が低下することが明らかとなった。そこで、認知機能低下過程と脳内金属量の相関性について比較するため、ICP-MSを用いて脳内金属濃度を比較解析した結果、老化によって脳内でのマンガンおよび亜鉛濃度の低下と、鉄および銅濃度の上昇を認めた。更に、亜鉛欠乏により、若齢マウスの脳内において鉄濃度の上昇を認めた。このことから、若齢マウスにおいては、亜鉛欠乏により鉄が脳内に蓄積することで認知機能が低下する可能性が考えられた。加えて、腸組織における金属濃度の変化を比較解析した結果、老化による影響は僅かであったが、亜鉛欠乏により、若齢および老齢マウス共に、腸組織内の鉄濃度の上昇が認められた。この結果は、脳組織内における金属の代謝変化と相関しており、生体内金属代謝の変化における腸脳相関の関与を示唆する結果であると考えている。
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