研究課題/領域番号 |
19J01779
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
藤井 祥 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 葉緑体 / 色素体分化 / 核様体 / チラコイド膜 |
研究実績の概要 |
植物の色素体DNAは色素体内でタンパク質とともに核様体とよばれる複合体を形成し,色素体の膜にアンカーされている。核様体の分布や形態は色素体の分化とともにダイナミックに変化するが,その変化の生理学的な意義はよく分かっていない。本研究の目的は,葉緑体の分化過程において色素体核様体の形態や機能が制御されるメカニズムを,分子レベルで明らかにすることである。 2019 年度は,まず色素体核様体の形態変化を制御する分子を探り当てるため,核様体を構成するタンパク質を欠損したシロイヌナズナの変異体を用いた解析を行った。多数の変異体の色素体核様体を超解像度顕微鏡を用いて観察した結果,色素体DNAを膜にアンカーするタンパク質であるMFP1が,葉緑体分化時にみられる核様体の分散に重要であることを突き止めた。また,色素体DNAの定量解析により,MFP1はDNAの合成や分解には関わっておらず,核様体の形態制御を主な機能とすることを見出した。さらに,色素体核様体の構造をより詳細に分析する技術の確立を目指し,次世代シーケンシングを用いて核のクロマチン構造を分析する手法であるMNase-seqやATAC-seqの色素体への応用を試みた。その結果,架橋処理を施した色素体において特徴的な核様体の構造パターンを検出できることを発見した。 これらの活動に加え,チラコイド膜の形成と葉緑体の分化に関する総説を発表するとともに,核や色素体,ミトコンドリアにおいてDNAの構造維持に寄与するタンパク質であるRNase H1のシロイヌナズナにおける機能を明らかにする研究にも参加した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
報告者は2019年度の活動によって,色素体核様体の形態制御において中心的な役割を果たす因子がMFP1タンパク質であることを発見した。MFP1が色素体DNAの合成や分解には関わっていないことも確認しており,核様体の形態制御を主な役割とするタンパク質であると考えている。このような機能をもつ因子はこれまでのところ報告されておらず,色素体分化の過程における核様体の形態を高解像度で詳細に観察することで初めて見出すことができた。この非常に新奇性の高い成果は,今後の研究を進展させる重要な基盤となる。 また,報告者は2019年9月から2020年6月までの予定で米国ミシガン大学に滞在し,Andrzej Wierzbicki博士とともに次世代シーケンシングを用いた核様体微細構造の解析を行った。色素体核様体の微細構造をシーケンシングによって解析する手法は世界に先駆けたものであり,綿密な条件検討が必要となったが,色素体の処理条件やデータの処理方法を細かく検討することで,最適な解析手法を編み出すことができた。ミシガン大学での滞在は新型コロナウイルスの影響で2020年4月までの短縮を余儀なくされたが,今後の核様体の形態解析において鍵となる手法の確立に成功したと思われる。 以上のことから,研究は極めて順調に進捗していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,色素体分化時にみられる核様体の挙動がMFP1を中心にどのように制御されているか明らかにするため,以下のような解析を行う。 (1)色素体が分化する過程における核様体と膜の相互作用を定量的に解析する。超解像度顕微鏡と画像解析システムを用いて,色素体膜とDNAとの距離や接触面積が葉緑体の分化過程でどのように変化するか調べる。また,この変化がMFP1欠失変異体でどのような影響を受けるか分析するとともに,蛍光標識したMFP1の挙動を経時的に観察する。加えて,膜画分に含まれるDNA量の変化を半定量的PCRにより定量化する。 (2)色素体が分化する過程での核様体の形態変化を次世代シーケンシング法により紐解く。キュウリやカラシナの芽生えから分化の各段階にある色素体を単離し,そこに含まれるDNAの微細構造を調べる。さらに,MFP1を標的としたクロマチン共免疫沈降シーケンシングや色素体遺伝子のmRNA-seqも並行して行い,DNAの微細構造と遺伝子発現の関係性について考察を深める。 (3)MFP1以外にも色素体DNAの膜アンカーに関わるとされるタンパク質はPEND,pTAC16,TCP34など複数存在する。mfp1変異体を他の核様体膜アンカー因子の変異体を掛け合わせた多重変異体を解析することで,膜アンカー因子どうしの相互作用関係を解き明かす。 学会において得られた成果を発表するとともに,MFPの機能解析に関する内容を論文化し,公表に向けた準備を進める。
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