研究課題/領域番号 |
19J01822
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
日比谷 由紀 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海洋機能利用部門(海底資源センター), 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 深部マントル / 海洋島玄武岩 / 洪水玄武岩 / 核合成異常 / 炭素質コンドライト / 質量分析 |
研究実績の概要 |
本研究は、地球深部由来の火成岩に、隕石を対象とした高精度安定同位体分析を適用するという、世界初の試みであり、近年見つかっている上部マントルとは異なる化学的特徴を示す深部マントル物質の起源を特定することを目指すものである。令和2年度には、海洋研究開発機構でのCr同位体比測定のルーティン化を確立した。これにより、コンドリュール1粒や隕石衝突起源スフェリュールなど、微小惑星試料からのCr, Ti同時抽出と高精度安定同位体分析までの作業を一括して海洋研究開発機構で行うことができるようになり、将来的な太陽系物質進化学における多大な貢献が期待される。確立した手法を用いて、深部マントル由来火成岩であるオントンジャワ海台玄武岩、サモア海洋島玄武岩、インドの洪水玄武岩試料の高精度Cr安定同位体分析を行った。その結果、サモア海洋島玄武岩では、地球上部マントル試料と同一のCr安定同位体組成をもつことを確認した一方で、オントンジャワ海台玄武岩、インドの洪水玄武岩のいくつかの試料では系統的に誤差範囲を超えて正のCr同位体異常を確認した。そこで、当初の目的を変更し、このCr同位体比測定の結果について、引き続き考察を行うことにした。データ整理を行なったところ、この小さなCr同位体正異常は、1週間のスタンダードの誤差範囲は超えるものの、2年間に渡るスタンダードの測定誤差には収まっているため、質量分析計での補正しきれなかった質量分別の名残を見ている可能性があり、解釈には注意を要することがわかった。現在、この正のCr同位体異常が、① 材料物質が強い(太陽)宇宙線照射を受けていた可能性、② 炭素質コンドライト隕石物質の寄与を受けていた可能性、③ 質量分析計における分別の可能性、のどれを示しているのか、他の同位体や試料が持つ化学組成とも併せて探っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
分析手法の開発の面では、化学操作・質量分析手法ともに新たな知見を見出し、これまでにない微小物質の高精度Cr, Tiの同位体分析手法を確立するに至っている。それによって、隕石のような微小鉱物の分析においても、Cr, Tiの同位体分析が可能になり、応用範囲が格段に広がった。さらに、隕石と地球を創成した物質の相違を明らかにするために始めた深部マントル由来火成岩であるオントンジャワ海台玄武岩、サモア海洋島玄武岩、インドの洪水玄武岩試料のCr, Tiの同位体分析を進めた。その結果、Tiに関しては異常値が見られず、Tiについてはマントル中で十分均質に混合していることがわかった。一方、Crについては、一部同位体異常を発見するという画期的な結果を得て、現在分析上の問題が無いかの確認分析を行うとともに、その異常を引き起こしたプロセスを深く考察を行っている。精力的に重要な成果を出しているため、同分野の研究者からも注目され、東京大学、ウィスコンシン大学、ブリュッセル自由大学、茨城大学との共同研究も本格的に始まっている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、オントンジャワ海台玄武岩試料、サモア海洋島玄武岩試料、インドの洪水玄武岩試料の全岩Cr,Ti安定同位体比測定結果の検証を引き続き行っていく。さらに、測定を終えた試料について、Re-Os同位体比測定を行う。海洋研究開発機構のクリーンルームにおいて、試料の溶液化、化学分離作業を行う。その際、揮発性の高いOsは化学分離過程で失われやすいため、Os同位体分析用の試料に関しては、ガラス管に封入して分解を行うカリアスチューブ分解法を用いる。Osの分離は四塩化炭素を用いた抽出作業(Cohen and Waters, ACA, 1996)によって分離を行う。Os同位体比測定は、表面電離型質量分析計(TIMS)の負イオンモードを使用して行う。以上の結果をまとめ、地球の材料物質の同位体情報の復元を行う。復元された同位体組成情報について議論を行う。
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