研究課題/領域番号 |
19J01826
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
大橋 りえ 富山大学, 研究推進機構, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 局所翻訳 / 樹状突起 / mRNA輸送 / 翻訳イメージング / 長期記憶 |
研究実績の概要 |
神経樹状突起における局所翻訳は長期記憶に重要な役割を果たすことが示唆されている。しかし、長期記憶を形成する学習に伴って、実際に脳内で樹状突起における局所翻訳が起こるのか、その局所翻訳が長期記憶に必要であるのかは明らかにされていない。 そこで本研究では、行動遂行中のマウス脳におけるin vivo翻訳イメージング法の開発を目指している。具体的には、エピトープの繰り返し配列を含む翻訳産物に、そのエピトープに対するGFP標識一本鎖抗体 (scFV-GFP) が結合することを用いたSun-Tag法をin vivoに適用する。そこで、エピトープ配列およびscFv-GFPを発現するレンチウイルスベクターをそれぞれ作製した。これらのウイルスベクターをマウス海馬に導入し、神経細胞において発現が見られることを確認した。今後、超小型蛍光内視顕微鏡を用いて行動中のマウス海馬樹状突起における翻訳イメージング法の開発を試みる。 また、局所翻訳される新たな候補遺伝子群としてArf GEF, GAPファミリーに着目し、これらmRNAの樹状突起への輸送および局所翻訳が長期記憶形成に与える影響を明らかにすることを目指している。そこでまず、複数種類のArf GEF, GAP mRNAに関し、神経初代培養系を用いて樹状突起への輸送責任領域を同定した。これらの遺伝子のうち、スパイン成熟やAMPA受容体細胞表面発現へ影響を及ぼすことを確認済みのArf GEF, GAPに関し、CRISPR-Cas9システムにより樹状突起への輸送責任領域を欠失させたマウスを作出した。今後これらのマウスを用いて長期記憶への影響を解析する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では学習時・後の脳内において樹状突起での新規翻訳を可視化する方法の開発を目指している。今年度は、in vivo翻訳イメージングに用いるウイルスベクターを作製した。具体的には、scFv-GFPをコードするレンチウイルスベクターおよび、scFv-GFPが結合するエピトープの繰り返し配列をコードするレンチウイルスベクターをそれぞれ作製した。これらのウイルスベクターをマウス海馬に導入し、神経細胞において発現が見られることを組織学的に確認した。 また本研究では、これまでの研究結果を基に局所翻訳新規候補遺伝子群としてArf GEF, GAPファミリーに着目し、これらの樹状突起内mRNA輸送および局所翻訳が長期記憶に与える影響を明らかにすることを目的としている。そこで、着目した8種類のArf GEF, GAP mRNAに関し、様々な欠失変異体を神経初代培養細胞に発現させることにより、樹状突起への輸送責任領域を同定した。これらの遺伝子のうち、スパイン成熟やAMPA受容体細胞表面発現への影響があることを既に確認済みであり、かつ脳内での発現量が多いArf GEF, Arf GAPそれぞれ1種類の遺伝子に着目した。これらのArf GEF, Arf GAPに関し、CRISPR-Cas9システムにより樹状突起への輸送責任領域を欠失させたマウスを作出した。具体的には、輸送責任領域の前後にガイドRNAを設計することで目的の領域を欠失させた。現在、行動解析に用いるのに十分な数のマウスを作出中である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に作製したレンチウイルスベクターを用い、マウス海馬におけるin vivo翻訳イメージングを試みる。2種類のレンチウイルスベクターをマウス海馬CA1領域に導入した後、GRINレンズとマイクロプリズムを背側海馬にセッティングし、超小型蛍光内視顕微鏡を用いて海馬断面から樹状突起における局所翻訳の可視化を試みる。その後、学習課題遂行時のマウスにおいて新規の局所翻訳を継時的に観察できる方法を確立する。それにより、学習前・中・後の樹状突起における翻訳をイメージングし、局所翻訳と長期記憶との関連を明らかにする。 また、特定のArf GEF, Arf GAP mRNAの樹状突起への輸送責任領域欠損マウスについて、mRNAの発現量、樹状突起へのmRNA輸送の有無、また、タンパク質の発現量およびその局在の変化を解析する。次いで、学習課題(バーンズ迷路、T迷路)を実施し、Arf GEF, GAP mRNAの樹状突起への輸送と長期記憶形成との関連を明らかにする。
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