研究課題/領域番号 |
19J01929
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研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
植田 高啓 国立天文台, 科学研究部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 惑星形成 / 原始惑星系円盤 / ダスト / 輻射輸送 |
研究実績の概要 |
近年の系外惑星観測によって、中心星の近くを周回する地球の1-100倍程度の質量をもつ固体惑星が普遍的に存在することが明らかになってきた。本研究の目的は、観測と数値シミュレーションの比較を通して、これらの惑星の形成過程を明らかにすることである。 2020年度は、HL Tau周りの原始惑星系円盤の内側領域の乱流強度とダストサイズの推定を行った。ダストのサイズおよび乱流強度は、ダストから微惑星への成長過程を理解する上で重要である。近年、ALMAの偏光観測から推定されるダストサイズと、従来のSED観測によるサイズ推定の結果が矛盾するという問題があった。本研究では、円盤鉛直方向のダストの乱流巻き上げを考慮する事で、これらの矛盾を解消し、ダストサイズと乱流強度を同時に推定した。これにより、HL Tau円盤の内側領域では、乱流が非常に弱く、ダストがmmサイズ程度まで成長していることが示唆された。以上をまとめた論文は、2021年4月にThe Astrophysical Journal誌に受理された。 この研究と並行して、2020年度は、乱流境界線での地球型惑星系形成のシミュレーションを行なった。乱流境界線は、岩石微惑星の形成場所の有力候補の1つである。従来考えられてきた進化後期の円盤では、乱流境界線が現在の地球軌道より内側に位置し、地球型惑星の軌道を説明できなかった。本研究では、進化初期段階の高温の円盤であれば、現在の地球軌道付近で乱流境界線での岩石微惑星形成が起こることを示した。さらに、得られた微惑星分布から現在の太陽系地球型惑星に近い惑星分布が得られることを示した。この結果は、乱流境界線での惑星形成が地球型惑星形成の有力モデルとなることを示している。この研究は、2021年度に跨いで行い、2021年10月にThe Astrophysical Journal Letters誌に受理された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題はおおむね順調に進展している。2020年度は、乱流境界線とスノーラインでの微惑星形成計算のコード開発および2019年度に採択されたCW Tau円盤のALMA観測のデータを解析する予定であった。微惑星形成計算のコード開発については、ドイツに渡航して共同研究者とともに開発する予定であったが、新型コロナウィルスの影響で変更を余儀なくされた。変更後は、国立天文台の共同研究者とともに、乱流境界線での微惑星形成シミュレーションと重力多体計算を組み合わせた地球型惑星形成シミュレーションを行なった。研究内容は複数の学会で発表し、2021年度に論文が受理された。 2019年度に採択されたCW Tau円盤の観測についても、新型コロナウィルスの影響で観測が延期となり、2020年度内に着手できなかった。その代わりとして、HL Tau円盤の既存データと輻射輸送シミュレーションの比較を通して、円盤中のダストサイズと乱流強度を制約する新たな手法の構築に取り組んだ。研究内容は複数の学会で発表し、2021年度に論文が受理された。 このように、2020年度は研究計画の一部変更を余儀なくされたが、2020年度に行った研究は2021年度までに全て論文として受理・出版され、概ね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後はこれまで得られた結果を元に、観測と理論シミュレーションをより一層融合させた惑星形成研究に取り組む。これまでの乱流境界線での岩石惑星形成シミュレーションでは、太陽系地球型惑星の力学的特徴をよく説明する特定の円盤パラメータ(乱流強度・ダストの限界付着速度など)を取り出し、詳細な研究を行った。今後は、形成される惑星系が円盤パラメータにどのように依存するか明らかにし、太陽系地球型惑星がどれほど普遍的であるかを明らかにする必要がある。 その上で、観測的に円盤パラメータを制約することが重要である。2020年度はHL Tau円盤を例として円盤パラメータの制約に取り組んだ。今後はこの解析を多くの円盤で行うことで、統計的な議論が必要である。得られた統計データを理論シミュレーションに組み込むことで、太陽系地球型惑星の普遍性が明らかとなると期待される。
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