細胞の成長や増殖を誘導する上皮成長因子(EGF)は、ナノ粒子へ固定化されることでEGFの効果をアポトーシス(細胞死)に切り替えるが、その作用機序は未だ不明瞭である。そこで本研究では、これまでに新たなナノ粒子コンジュゲートを開発し、作用機序を解析する研究を進めてきた。前年度までに粒子径やEGF表面密度など、粒子の物性を調節した材料を開発し、EGFナノ粒子がアポトーシス活性を獲得するために必要な条件を調べてきた。本年度は、まず前年度の研究を継続して行うことで、ナノ粒子がアポトーシス誘導活性獲得のために不可欠な粒子径とリガンド密度の関連性を明らかにした。続いて、粒子と細胞の反応に注目して研究を実施した。最初の実験として、細胞内に存在する膜輸送に関与するタンパク質の機能を阻害する試薬を投与したがん細胞に対してEGFナノ粒子を投与し、その後アポトーシスアッセイを行った。すると興味深いことに、粒子が投与されていない細胞や未処理の細胞は生存していたが、粒子を投与した細胞のみがアポトーシスした。さらに、ナノ粒子と機能性バイオマテリアルを組み合わせたコンジュゲートを開発し、上述した試薬添加ではなく、材料によって細胞への反応を制御した実験系で調べた場合でも、同様にアポトーシス活性が確認された。最後に、これらの条件における細胞応答性をウエスタンブロッティングなどの生化学実験や蛍光顕微鏡を用いたバイオイメージングにより調べると、ナノ粒子コンジュゲートは、通常とは異なる活性を引き起こしていた。これは、EGFをナノ粒子に固定化することで特殊な膜輸送を起こし、それが起因してアポトーシスを誘発するシグナルを発生させることを示唆する結果である。この作用機序の発見により、これまで効能の低かったがん細胞などに対しても、粒子の性質を制御することによりアポトーシスを誘導できる戦略を提案することが可能となった。
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