研究課題/領域番号 |
19J01990
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
横倉 聖也 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 有機エレクトロニクス / 分極 / 光電変換 |
研究実績の概要 |
安価で環境負荷が少ない有機光電変換が注目を集めているが、その機構は無機素子のものと変わらず、有機系の特性を捉えたものではない。これまでに我々は,金属 1(M)/絶縁分極層 1(I)/電荷分離層 (S)/金属2(M)なる構造の光電セル(MISMセル)を用いた研究が進めた.このセルでは、電極界面での電荷分離と薄膜内部の絶縁分極が組み合わされ,過渡光電流を巨大化するのが特徴である.チョップ光やパルス光といった変調光を照射すると絶縁体界面で充放電により交流電流を出力する.よって応答速度を向上させることで光情報通信への応用が期待できる.しかし,有機半導体内でのキャリア移動と電極界面でのキャリア注入/抽出により応答速度が制限されるため,デバイス構造及び動作機構の刷新が必要である. 私は,上記MISMセルの出力電流が分極電流に起因していることに着目し,さらにI層を加え,S/M界面を排除したMISIMセルを提案した.このセルではS層の両側がI層で覆い,キャリア注入/抽出障壁が排除され,純粋な分極電流を出力可能であり,高速応答が期待できる.ITO基板上に,I層にParyleneC,S層にZnPc/C60の2層膜と積層順を変えたC60/ZnPc,電極に金,銀,銅を用いたMISIMセルを作製し,動作機構を検討した.S層の積層順と,電極の仕事関数依存から,本セルの出力電流の極性は,仕事関数の差よりもむしろS層内の電荷移動に起因する分極が支配的に寄与することがわかった.照射光の変調周波数依存測定で,光照射時の分極による電流は周波数依存が大きく,光遮断時の脱分極による電流は周波数依存がほとんどなかった.この系では,分極過程に比べ脱分極過程が遅く,この分極/脱分極速度の不均衡により,高周波数では脱分極が追随できず結果として分極変化が小さくなり周波数依存が大きくことを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
S層の両側にI層を挿入したMISIMセルにおける光電変換を実現したことで,半導体/金属電極界面を介さず,純粋な分極電流により駆動する光電変換を達成した.MISIMセルでは過去に報告されたMISMセルよりも1桁程度高い応答速度が達成された.周波数依存測定により,分極を起源とする光電変換素子の応答速度向上の指針を得た.
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今後の研究の推進方策 |
電子ドナーと電子アクセプターが分子レベルで均一に混合した系である交互積層型電荷移動錯体をS層に用いたMISIMセルを作製し,さらなる高速応答を目指す.電荷移動錯体結晶中で,ドナー分子とアクセプター分子がface-to-faceで交互に積層するため,光電荷分離と再結合が効率よく進行し,高周波数での応答が期待できる. 電荷移動錯体は1次元性の材料であるため,薄膜中での分子配向により物性が大きく変化すると考えられる.テンプレート層を用い,電荷移動錯体薄膜の配向制御を試み,光応答の配向依存測定も検討する.
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