研究課題/領域番号 |
19J02048
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研究機関 | 京都外国語大学 |
研究代表者 |
白鳥 祐子 京都外国語大学, 京都外国語大学ラテンアメリカ研究所, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | マヤ文明 / 植民地時代 / 考古学 / 歴史学 / 異分野融合 |
研究実績の概要 |
昨年度における研究目的は、16世紀~19世紀に書かれたマヤ族に関する文献史料の渉猟と、野外調査による15世紀半~18世紀の考古資料の獲得である。4月より京都外国語大学にて、歴史史料についての基礎知識から多彩な辞書の利用方法を学びながら、16~19世紀にマヤ語とスペイン語で書かれた歴史史料の精査を実施した。主に植民地時代のマヤの政治組織や家族形態を史料から読み取り、ヨーロッパ人との接触前後で政治組織や家族形態がどのように持続・変化したのか知見を得た。特に、グァテマラの中央アメリカ総合古文書館にて収集した、16世紀スペイン国王によるマヤ・イツァ族に関する文書の読解により、国王文書に関連する文献を調査する必要性が明らかになった。 グァテマラでの現地調査では、グァテマラ政府からの発掘許可が遅れ、計画より短い期間での調査になった。現地調査の目的は、ニシュトゥン・チチ遺跡を治めたマヤ、チャカン・イツァ族の物質文化解明のデータ収集であったが、ニシュトゥン・チチ遺跡の南側の斜面(セクターPP)を発掘し、後古典期の住居址と祭祀建造物を確認し、遺物を獲得することができた。住居址の北(住居裏)5m地点には、後古典期の貝塚が確認され、多数の土器片、リンゴガイ、動物骨等が出土し、後古典期チャカン・イツァ族の食生活や土器様式が明らかになった。貝塚より30m南に位置するコの字型の祭祀建造物からは、後古典期後期の指標である祭祀用人形香炉の破片が多数出土し、マヤ・イツァ族の人形香炉との比較を可能にした。遺物整理・分類作業行い調査報告書をまとめ、グァテマラ政府に提出した。 考古学と歴史学を融合した研究発表として、国内外の国際学会において日本語、英語、スペイン語で発表し、グァテマラ考古学会の発表論文は学会論文集にまとめられ、来年出版される予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は当初の計画通り、歴史史料と考古資料の収集ができた事は大きな成果であり、おおむね順調に進展していると判断できる。グァテマラの中央アメリカ総合古文書館においての歴史文献収集は、オンラインによる資料検索ができず、予想以上に手間と時間がかかったが、本研究に関連する文献を4本複写入手し、大越教授の指導のもと読解することができた。発掘調査では、期間の短縮により調査規模を縮小することになったが、後古典期貝塚の発見により、予想以上の一次資料を獲得することができた。出土した遺物の整理作業の途中で、可能な限りの黒曜石、土器片、動物骨、炭化物などの輸出許可をグァテマラ政府から得てアメリカに持ち出すことができたため、計画より先行してアメリカの共同研究者に送付することができた。発掘調査の研究報告書は、計画より2カ月早くまとめることができ、グァテマラ政府へ10月に提出した。しかしながら、国際学会における口頭での研究発表を計画以上に行ったため、長距離移動に多くの時間が費やされ、学会誌等への研究発表が計画よりも少なかった。さらに昨年度後半において、世界的な新型ウィルスの拡大により、調査を中断して帰国せざるを得ず、炭素年代測定などの理化学調査を行うためのサンプルが準備できず、来年度に先送りすることになった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、当初の計画では発掘調査による考古資料の更なる獲得と、スペインのインディアス総合古文書館にて歴史史料を収集する予定であったが、新型ウィルスの世界的な蔓延と海外渡航の危険性を鑑みて、研究計画の変更を行う。具体的には、国内で推進可能なデータ分析と研究論文執筆を中心に行い、来年度へ発掘調査を繰越す。世界の感染状況や外務省の海外渡航に関する情報を見ながら、スペインへの歴史史料収集を1~3月に予定変更する。調査する文献は、マヤ・イツァ族が16世紀半ばにスペイン人と接触したことを示唆しており、先行する歴史家によっても未発表であると考えられる。この文献を読解し史料批判することにより、スペイン人による征服以前のマヤ・イツァ族とスペイン人の関係性を明らかにする。新型ウィルスにより、前年度3月に遺物を輸出することができず、さらに輸出先のアメリカへも入国することができなかったため、新たに黒曜石、動物骨、炭化物の理化学分析を行うことができない。この点に関しては、昨年10月に輸出した一部の遺物を用いて、黒曜石の蛍光X線分析と動物骨の同位体分析を、アメリカの共同研究者に依頼する予定である。これらの研究成果を研究論文にまとめ、学術雑誌に投稿する。
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