研究課題/領域番号 |
19J02088
|
研究機関 | 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 |
研究代表者 |
小田切 公秀 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 特別研究員(PD)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
|
キーワード | 濡れ制御 / 熱スイッチ / 多孔体熱流動 / 高熱流束ループヒートパイプ |
研究実績の概要 |
将来の宇宙科学・探査ミッションの高度化に向け、高性能な熱スイッチと高熱流束熱輸送デバイスが求められている。しかし既存の熱スイッチはON/OFF比が低く、宇宙用LHPは高熱流束輸送に未対応である点が課題であった。本研究では上記の課題を解決するため、相界面濡れ制御による熱スイッチ機能発現と高熱流束ループヒートパイプ(LHP)熱スイッチ技術確立を目的とし、研究に取り組んでいる。具体的には、高熱流束構造(蒸発器壁マイクロ溝構造)をLHPに適用し、高いON/OFF比を期待できる相界面濡れ制御を応用することでLHPに熱スイッチ機能を発現することを目指す。本研究は、まず要素技術実証として(1)蒸発器壁マイクロ溝構造をLHPに適用し高熱流束LHP実証に取り組む。次に(2)小型試料を用いて濡れ制御と熱伝達性の関係を明らかにする。そしてシステム実証として(3)高熱流束LHP熱スイッチを構築し熱輸送特性を明らかにする。最終的に(4)宇宙機熱制御デバイスとしての有効性検証のため、宇宙模擬環境における熱輸送特性を明らかにする。 これまで、要素技術の一つである高熱流束LHPの実証試験を実施した。その結果、蒸発器内部で発生した蒸気が流動する蒸気溝と、新構造であるマイクロ溝の組合せにおいて、溝幅の最適組合せの存在を示す結果が得られた。具体的には、従来構造の最適蒸気溝幅とマイクロ溝の組合せでは、マイクロ溝を適用しない場合と比較してかえって性能が低下する結果が得られた。本結果は、申請課題中の新構造を適用した高熱流束熱スイッチを実現する上で、解決すべき重要課題である。同時に、本結果はこれまでの多孔体気液界面挙動の知見のみでは説明できない現象であるため、学術的知見を得ることが期待できる。今後は、まず上記の現象解明に取り組む。また並行して、小型試料による濡れ制御と熱伝達特性の関係を明らかにすることを目指す。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでに新構造のマイクロ溝構造を適用した高熱流束ループヒートパイプの製作・性能評価試験を実施したが、従来構造と比較してかえって性能が低下する結果が得られた。想定外の結果であり、本課題の解決に取り組んでいるため、やや遅れが出ている。今後は蒸発器内の気液界面挙動可視化によって現象解明にアプローチすると同時に、濡れ制御と熱伝達性の関係を明らかにすることを目指す。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度は、大きく分けて以下の2点の研究内容に取り組む。 (a)小型試料を用いた多孔体気液界面観察による現象解明 高熱流束LHPの熱輸送性能評価試験の結果、従来構造の最適蒸気溝幅とマイクロ溝幅の組合せでは、新構造を適用しない場合と比較してかえって性能が低下する結果が得られた。この要因を明らかにするため、多孔体気液界面観察装置を用いて蒸気溝幅、マイクロ溝ピッチ間隔の異なる複数試料における気液界面挙動観察を実施する。LHPシステムレベルでは現象可視化は難しく、次の(b)に示すシステムレベルの実験と相互補完的に実施することで現象理解にアプローチする。また、本装置を用いて、加熱面の濡れ性変化(接触角変化)と熱伝達特性の関係を明らかにし、熱スイッチ性を要素レベルで実証することを目指す。 (b)異なる蒸気溝幅を有する高熱流束LHPによる熱輸送性能評価試験 上記(a)は多くの組合せ条件のもとで実験実施可能な一方で、システムレベルにおいての性能実証はできない。そこで昨年度に構築した、内部構造を交換可能な蒸発器を用いてLHPシステムにおける性能評価に取り組む。具体的には、蒸気溝幅を1.0mm、0.5mmとした多孔体ウィックを製作し、熱輸送性能評価試験を実施する。(a)、 (b)の知見に基づいて、気液界面挙動に関する現象を解明し熱スイッチ機能発現とシステムレベル実証へとつなげる。また、本装置を用いてシステムレベルでの熱スイッチ性を実証することを目指す。
|