研究課題/領域番号 |
19J10013
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
平田 雄翔 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | スキルミオンホール効果 / フェリ磁性体 / 角運動量補償温度 / トポロジカルマグナス力 |
研究実績の概要 |
磁気スキルミオンは渦上に磁化が捻じれた構造を持ち、非常に小さく、低電流密度で駆動可能であることから磁気メモリへの応用が示唆され近年精力的に研究が行われている。一方で、強磁性体中のスキルミオンは電流印加方向に対して直進しない(スキルミオンホール効果)ことが知られており、スキルミオンの電流による位置制御は、応用上の課題の一つである。本研究では、共同研究グループによる、磁性体の角運動量補償温度においてトポロジカルマグナス力が打ち消し合い、スキルミオンホール効果が発現しないという理論的予測に基づき、フェリ磁性体GdFeCoの角運動量補償温度近傍におけるスキルミオンの電流駆動現象を明らかにすることを目的とした。今年度は、スピン流源であるPt及びフェリ磁性体GdFeCoからなる磁性多層膜を用いて、磁気スキルミオンの電流駆動現象の観測を試みた。使用した磁性多層膜においては、外部磁場の印加により孤立したスキルミオンの生成が確認できなかったため、円形磁区の書き込み用電極を薄膜上に作成し、それを用いて円形磁区を作製したのち、パルス電流による駆動を試みた。この結果、円形磁区が電流印加方向と一定の角度をなして拡大していく様子が確認された。さらに、温度依存性を調査したところ、角運動量補償温度近傍において円形磁区は電流印加方向と平行な方向に拡大し、その前後において、磁区拡大方向が反転することが明らかになった。本結果に関して、共同研究グループに解析を依頼したところ、観測された円形磁区の拡大現象は、ハーフスキルミオンが張力を受けながら電流駆動するモデルに基づく理論計算及びシミュレーション結果と定性的に良く一致していることが明らかになった。これらの結果から、フェリ磁性体の角運動量補償温度近傍においてトポロジカルマグナス力が打ち消し合い、スキルミオンホール効果が発現しなくなることを実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の目的は、補償温度を有するフェリ磁性体において、①スキルミオンの電流駆動現象を明らかにし、さらに、②室温でスキルミオン駆動を行うことのできるフェリ磁性多層膜の開発を行うことである。今年度は、フェリ磁性体GdFeCoに非磁性重金属のPtを接合した磁性多層膜試料にパルス電流を印加し、磁気光学Kerr顕微鏡を用いてこれを観察することにより、角運動量補償温度近傍におけるスキルミオンホール効果を観測することに成功した。これにより角運動量補償温度においてはトポロジカルマグナス力が打ち消し合い、スキルミオンホール効果が発現しないことを実験および、理論的な解析から明らかにし①を概ね達成した。次年度からは、フェリ磁性体GdFeCoの組成比並びに、磁性多層膜の膜構造を制御し、室温においてスキルミオンを生成する条件を調査する。さらに、作製した磁性多層膜と、今年度確立した測定手法を用いて、室温近傍におけるスキルミオンの電流駆動を実現する。これらにより、本研究課題の達成が見込まれる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、フェリ磁性体GdFeCoにおけるGd及び、Fe、Co元素の組成比ならびに、磁性多層膜の構造を制御し8元スパッタを用いて室温でスキルミオンを生成可能な薄膜の作製を行い、これを用いたスキルミオン電流駆動の実証を行う。さらに、今年度の実験により得られた知見をもとに、強磁性体Py及び非磁性金属Cu並びに垂直磁気異方性を有するCoNiからなる磁性多層膜を作製し、Pyからのスピン流注入を通じて、スキルミオンの電流駆動を行うなど、強磁性体においてもスキルミオンの電流による位置制御に関する実験を行う。
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